石川雄一 (教会史家)
「ゴッドファーザー」と聞くと、ほとんどの人はフランシス・フォード・コッポラの名作映画を連想するのではないでしょうか。言わずもがな、シチリア系マフィアのコルレオーネ家を描く『ゴッドファーザー』三部作は、映画史に燦然と輝くマフィア映画の金字塔です。『ゴッドファーザー』は筆者が最も好きな映画の一本であり、語り出すと止まらないのですが、今回は映画そのものではなく、この作品に着想を得たカクテルを紹介いたします。
今では「ゴッドファーザー」と聞くと多くの人は映画のことと思うでしょうが、その本来の意味は「代父」というカトリックの制度です。カトリックの世界には、衣食住といった世俗のことに責任を負う血縁上の親とは別に、信仰上の事柄に責任を負う霊的な親である「代父母」という人がいます。今日よりも死が身近であった前近代においては、血縁上の親が早死にした場合に「代父母」が子供の面倒をみるという実際的な役割も果たしていたのですが、次第にそのつながりは霊的な側面のみに限定されていきました。
そんな中、血のつながりがないにもかかわらず、「血の掟」(オメルタ)に代表される強いつながりを持つマフィアたちは、「代父母」制度を利用してメンバーの結束を強めようとしました。つまり、住民のほとんどがカトリック信者であるシチリアに起源を有するマフィアは、カトリックの「代父母」制度によって組織の精神的な結びつきの強化を図ったのです。「代父母」制度を利用した疑似家族(ファミリー)、それがマフィアの世界なのです。なお、ここで言うシチリアとは、現在のシチリア島だけでなく、かつてシチリア王国という国によって治められていた南イタリア全体を指しています。
さて、20世紀初頭にシチリア人たちが続々とアメリカに渡っていくと、その移民たちはアメリカ合衆国の多数派であるWASP(白人、アングロ=サクソン系、プロテスタント)とは異なった共同体を形成していきました。マフィアもその一つです。出身地、民族、言語、宗教などの共通点を有するシチリアの移民たちによって構成されるマフィアは、さらに「代父母」制度によって強く結ばれ、自分たちの権益を守るためには手段を選びませんでした。ちなみに、教皇フランシスコは犯罪にすら手を染めるマフィアが「代父母」制度を利用していることを非難し、2017年に規制を加えました。
本題に入りましょう。「代父母」制度を利用してつながりを強めるマフィアの世界を描いた映画『ゴッドファーザー』をイメージした「ゴッドファーザー」は、アマレットというアーモンドを使ったイタリアのお酒とウィスキーを混ぜたカクテルです。お酒をお酒で割った「ゴッドファーザー」は、マフィアの暴力的な側面を感じさせるアルコール度数の高いお酒ですが、同時に、アマレットの甘く優しい味わいが映画の人間ドラマの側面を思い起こさせます。なお、ウィスキーに指定はありませんが、禁酒法時代に酒の密輸・密売で暴利をむさぼったマフィアをイメージして、アメリカのバーボンよりもスコッチが用いられることが多いです。