伊藤 一子(レクレ-ション介護士、絵本セラピスト)
今年は暑い夏が長く続きましたが,ようやく秋の訪れを感じられるようになりました。
美しい月の光と集く虫の声に、しみじみと秋を感じ、わが身の来し方、行く末に思いを巡らせることがあります。秋は、自分の生きかたを考えさせる季節のようです。
さて、8人の老人たちの生き方が、印象に残る絵本があります。「ふるいせんろのかたすみで」(チャールズ・キーピング作、ふしみみさを訳、ロクリン社、税込み1760円)です。この絵本では、絵が文を補完するばかりでなく、登場人物の詳細を物語っています。絵を読み解くことで、絵本の面白さを味わえる絵本です。
線路長屋の住人は貧しい老人たちでした。それぞれの人生を経て、ひっそりと暮らしていましたが、ある日、みんなで買ったサッカーくじが大当たり。生活ががらりと変わりました。借りていた家をそれぞれが買い取り、個性豊かにしつらえました。
住人のアデーレおばさんは、気になっていたゴミ捨て場を買い取りバラを植え、子供の遊び場としました。文句ばかりのウイリアムおじさんは、賭け事に忙しくなりました。料理好きなアデおばさんは、料理を片っ端から作り、全部平らげたので太ってしまいました。エアおばさんは、かわいがっていた金魚のサムのために仲間の金魚をたっぷり買い、サムがどの金魚かが分からなくなりました。船乗りだったハリーおじさんは、家を売り旅に出ました。ケチケチおじさんは、頑丈な部屋を作り一日中お金を数えています。妻のケチケチおばさんは、好きな洋服を次々買い込みました。アーネストおじさんは、お金が入っても以前と同じ暮らしを続け、子供たちのために自転車を組み立てました。アデーレおばさんと、アーネストおじさんの近くには、自転車とバラの花に囲まれた子供たちの笑顔がありました。
個性豊かな老人の生活は、長く生きてきたその人らしさが表れています。様々な老いの生き方は、自分が老いを生きるうえでのヒントが、ちりばめられています。大金が入ったことで一変した生活、お金の使い方にそれぞれの生き方が表れています。今だけ自分だけの自利のためだけに、身の丈をこえて、過剰にお金を使っても、心は解放されずに閉塞感に陥ります。バラ咲く遊び場を作ったアデーレおばさん、自転車を子供のためにつくるアーネストおじさんの周りには、子供たちの笑顔があります。高齢者が、次世代の子供たちに役立つ何かをする、その利他の心は、晴れやかで開放的です。
「人は生きてきたように死んでいく」という言葉があります。多くの人を看取ってきたホスピスケア医の柏木哲夫医師の言葉です。「しっかり生きてきた人はしっかりと亡くなり、周りに感謝して生きてきた人は、周りの人に感謝して亡くなります。よき死を死すためには、よき生を生きる必要があります。」と「老いを育む」(柏木哲夫著 2021)のなかで述べています。生き方は死に方に直結しています。
自利のみを求めるのではなく、ささやかでも利他を心の片隅に置き、満ち足りた死へとつながる生き方を、努めていきたいものです。
白衣にも色なき風や大観音
(ここでご紹介した絵本を購入したい方は、ぜひ絵本の画像をクリックしてください。購入サイトに移行します)