新しいミサの賛歌について―「ミサの賛歌」の歴史③:新たな会衆歌への扉


松橋輝子(東京藝術大学音楽学部教育研究助手、桜美林大学非常勤講師)

日本のカトリック教会で2022 11 27 日 (待降節第一主日)から実施されている新しい「ミサの式次第と奉献文」に基づいて新たに発表された3つの「ミサの賛歌」について連載しています。今、多くの教会ではこれらを歌い、慣れていこうという段階ではないでしょうか? 

前回見た、既存のグレゴリオ聖歌を踏まえた賛歌の旋律Aに対して、新しい式文の実施とともに創作された旋律B,Cに関連して、「新たな会衆歌」というテーマでお話をしていきたいと思います。

そもそも会衆歌とは、教会共同体全体で歌われる典礼聖歌、宗教的聖歌であり、古代キリスト教から現在に至るまで、礼拝における位置づけはさまざまでした。その中で、18世紀末から19世紀初頭にかけて、ドイツ語圏で興った「啓蒙思想的カトリシズム」あるいは「カトリック啓蒙思想」と呼ばれる改革意識によって生み出された会衆歌のレパートリーと聖歌集の編纂形態は、極めて重要です。このことがカトリック啓蒙思想家によって推進されたのは、一般の信徒が典礼祭儀の実質から分離されていることに対する批判に基づいています。それによって、18世紀末には、母国語による会衆歌聖歌集が多く出版されるようになりました。

この時代の詩と旋律の双方が、20世紀の典礼刷新に至るまでミサに影響を及ぼし、今日なお、聖歌集に重要な位置を占めています。日本においても、1883年に出版された『日本聖詠』や1918年に出版された『公教會聖歌集』をはじめなど、明治・大正期の再宣教期以来、多くの日本語聖歌集が出版され、聖歌は信者の中で親しまれてきました。教皇ピウス12世も、会衆歌を通して、信者の典礼への行動的参加が促進されることを求めています。

このように会衆歌はたびたび改革が行われてきました。極端な場合、⻑年、人々の間で親しまれていた聖歌を廃止するという措置が取られたこともありますが、それが人々の信仰生活に感情的な断絶をもたらしてしまうという現実もあり、大きな問題を生んできました。会衆歌は、典礼の中で大きな役割を果たすと同時に、会衆にとってより身近なものであるためには、会衆が生きている時代に沿う歌詞や旋律が必要としています。そして、新たな聖歌を歓迎して受け入れ、それに慣れていくという共同体の努力が、各時代において会衆歌の伝統を作り上げてきました。

現代の日本のカトリック教会が新しい賛歌を覚え、慣れていこうとしていることは、歴史的に何度も繰り返されてきた努力の新たな段階に今いるということを意味しているでしょう。

さて、前回述べたように、新しいミサの賛歌の旋律Aはグレゴリオ聖歌に基づいていますが、旋律BとC は新たに作曲された旋律で、⾧短調の音階に基づいています。B はこれまでの『典礼聖歌』にも多い朗唱的な聖歌です。一方、C はリズムを持ち、一定のまとまりを有する拍節的な聖歌です。Cの旋律はより歌いやすく、耳に早くなじむ聖歌となるでしょう。

ミサの通常式文に基づく賛歌が新しくなり、それに慣れていこうの動きは、やがて、日本の教会で、新しい会衆歌が豊かに生み出されていくための新たな土壌になっていくことでしょう。そのような展望や期待をもって、新しい3つのミサの賛歌を、いっそう心を込めて、典礼の中で歌っていきたいと思います。


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