あなたには心から何でも話せる親友はいますか。そして夢を持っていますか。また、戻りたいとき、戻りたい場所はありますか? 心から何でも話せると共、夢は人にとってとても大事だということと、後悔はどんな人にもあることを気がつかせてくれる作品に出会いました。そんな作品『帰れない山』をご紹介します。
北イタリアの都市トリノに山を愛する両親とともに暮らすひとりっ子の少年ピエトロは、1984年の夏、夏の休暇を、アルプス山脈で2番目に高いモンテ・ローザ山麓のグラーノ村で過ごすことになりました。その村は、昔183人住んでいた村人が、今では14人しかいない寂れた村です。そこでピエトロは、「この村で最後の子ども」と言われる牛飼いの少年ブルーノに出会います。ピエトロとブルーノはともに12歳の同い年です。
都会育ちで繊細なピエトロと、山で生まれ育った野性味たっぷりのブルーノは、対照的な二人ですが、村を駆け回り、草原や川で遊び、ときには廃墟を探検し、ときにはブルーノの仕事をピエトロが手伝って、彼らはたちまち親交を深めていきます。ブルーノはピエトロのことを「ベリオ」と呼び、二人は親友同士になっていきます。夏が終わるとピエトロはトリノに帰りますが、酪農家を夢見るブルーノは、ピエトロがいない時間も山での生活を続けますが、二人の時間はお互いにとってかけがえのないものでした。
工場のエンジニアとして多忙な日常を送るピエトロの父ジョヴァンニ(フィリッポ・ティーミ)は、若い頃、科学や物理、神話を学んだので、山は自分の人生を超えた大きな存在です。。そんな父にとって年に数回の登山は貴重な趣味です。ピエトロもジョヴァンニとともに山を登り、連なる山々を見つめ、その雄大さを目の当たりにします。その時、ピエトロはもはや都会が恋しいとも思わなくなっていました。
ピエトロの両親にとっても、ブルーノは大切な存在となっていました。母のフランチェスカ(エレナ・リエッティ )は、適切な教育を受けていないブルーノのため勉強の面倒を見て、ジョヴァンニもブルーノがトリノの高校に通えるよう支援することを決めました。しかし、離れて暮らしていたブルーノの父親が、息子をトリノに行かせまいと出稼ぎに連れ出してしまい、少年ふたりを引き裂いていまいます。。働いて大人になるしかないブルーノと、子どものままのピエトロは、その後、街で偶然に顔を合わせても、二人が言葉を交わすことはありませんでした。
やがて思春期を迎えたピエトロ(ルカ・マリネッリ)は、ジョヴァンニに反抗するようになります。一緒に出かけることを嫌がり、夏の休暇に山へ行くこともやめてしまいます。せめて大学を卒業するよう頼むジョヴァンニに、ピエトロは「父さんみたいな人生は送らない」と言い放ち、ピエトロは家族と疎遠になっていきます。ジョヴァンニがこの世を去った時、ピエトロは10年ほども口を利いていなかったのです。ピエトロは31歳、自分が生まれた当時の父と同じ年齢となります。しかし、ピエトロに妻子はなく、定職にさえ就いていません。
グラーノ村を久々に訪れたピエトロは、15年ぶりにブルーノ(アレッサンドロ・ボルギ )と再会します。そこでピエトロは、父にとってはこの村が理想の土地だったこと、山に家を建ててほしいと頼んでいたことを聞かされます。ピエトロが村に行かなくなった後も、ジョヴァンニはブルーノとよく山に登り、実父と喧嘩したブルーノもまた、ピエトロの両親に助言を求めていたのです。ピエトロのいない村で、ブルーノと父は本物の親子のような存在でした。
自分の知らない父の姿を知ったピエトロは、失われた時間を取り戻すため、ブルーノと二人で父の願いだった家を建てることを決意します。期間は4ヶ月、毎日二人だけの作業です。ついに家が完成した時、ピエトロは、この場所を毎年、一緒に夏を過ごす二人の家にしようと決めます。しかし、人生の目的をすでに見出していたブルーノに対し、ピエトロにはいまだ自らの未来が見えないままでした。
やがてピエトロは、今までの生き方を変え、自分らしい人生を手に入れたいと考えはじめます。父親と親友が愛した山は、ピエトロにとっても大切なものでした。大自然のもと、ピエトロは自分の人生に向き合いはじめます。この後は、ぜひ劇場でご覧ください。ピエトロは、どのように人生にと向き合うのか、そしてブルーノはどのようになるのか、そして二人の関係は……。
この作品のテーマはさまざまです。メインは友情ですが、そこに父親が絡み、雄大な自然とともに描かれています。現代社会に相反する山での暮らしは、私たちが忘れてしまった世界が描かれています。山に夢をかけたブルーノと自らの道を自らの脚で探し求めるピエトロの姿は今、私たちの立ち位置を象徴しているかのようです。
中村恵里香(ライター)
5月5日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
公式ホームページ:http://www.cetera.co.jp/theeightmountains/
スタッフ
監督・脚本:フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ/撮影:ルーベン・インペンス
キャスト:ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ、フィリッポ・ティーミ、エレナ・リエッティほか
2022年/イタリア・ベルギー・フランス/イタリア語/1.33:1/5.1ch/147分/原題:Le Otto Montagne/日本語字幕:関口英子/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル/原作:「帰れない山」(著:パオロ・コニェッティ 訳:関口英子 新潮クレスト・ブックス)
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