『LGBTとキリスト教 20人のストーリー』
日本キリスト教団出版局、2022年 定価:2200円 238ページ
3月25日に日本キリスト教団出版局より『LGBTとキリスト教 20人のストーリー』という書籍が刊行されました。この本の編集を担当した私はカトリック信徒です。プロテスタントの版元に勤めて10年ちょっとになります。この本をカトリック信徒にも読んでいただきたく、執筆者のおひとり、菊地功大司教様より本書を「推薦します」というお言葉をいただいた上で、以下のような案内文をつくりました。そして、東京教区、大阪教区、名古屋教区にお願いして、各教区内の全教会にこの本のチラシ(https://bp-uccj.jp/files/lgbt.pdf)と共に送ってもらいました。
本書はLGBT(性的少数者)の是非を問うたり、議論したりするためのものではなく、当事者を中心とした20人の体験記です。生の声をとおして、性の多様性と可能性、そして神の豊かな深い愛を伝える一冊です。
カトリック関係の方々にも多大な協力をいただいており、副題にある「20人」のうち5本はカトリック信徒によるものです。
・「高齢クリスチャンのLGBT 〜歳を重ねても自分らしく生きる〜」めぐみ/愛
・「同性パートナーとの子育て・家庭づくり 〜さまざまな家族のかたち〜」小野 春
・「カトリック教会のLGBT 〜安心できる祈りの場を求めて〜」野宮知弥
・「アフリカのLGBTI難民支援 〜迫害される側にいるイエス〜」島田順子(仮名)
・「詩歌に込める当事者の思い 〜生きる、祈る、書く〜」堀田季何
また、コラムは菊地功大司教様の寄稿はじめ、3本がカトリック関連です。
・「68歳で性別適合手術、そして受洗!」三土明笑
・菊地功カトリック東京大司教区東京大司教「その尊厳ゆえに尊重し、心を配るべき」
・「カトリックHIV/AIDS デスク」
監修者の平良愛香さんは「カトリックHIV/AIDSデスク」の委員であり、司祭研修会や「日本カトリック正義と平和全国集会」で講師を務めるなど、カトリック教会での働きも多い牧師です。
LGBTやキリスト教についてよく知らなくても読むことができますので、「LGBTって何? 聞いたことはあるけれど……」という方々に、特にお勧めいたします。
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キリスト教と一口で言っても、いろいろあります。身近なところでおおまかに言えば、プロテスタントとカトリックに二大別されるでしょう。プロテスタントにさまざまな教派・教団があるのに比べ、カトリックはバチカンを頂点とする一つの組織です。同じカトリックの教義につながれているので世界中のどこの教会に行っても、同じ信仰を持っているという帰属感や安心感を得ることができるのではないかと思います。
とはいえ、キリスト教の中でも考え方、捉え方が割れる事柄があるように、カトリック教会の中でも同じことが起きていると言えるでしょう。その一つがLGBTです。
たとえば、同性愛について教皇フランシスコはその存在を尊重すべきであるという発言をしましたが、これに反対するカトリック教会内の勢力もあるようです。教義を重んじ、守ることは大切なことです。しかし、安息日のために人があるのではなく、人のために安息日があるように、教義も人のためにあるべきではないでしょうか。少し前の『カトリック新聞』(2022年2月20日号)に「オロリッシュ枢機卿 教会の同性愛についての教え『もう正しいとは言えない』」という記事がありました。カトリック教会も変わっていくのだろうと思える記事でした。
とはいえ、現実の教会には「同性愛はキリスト教ではダメなんでしょ」「周りにそういう人はいないし……」と言う方々がまだとても多いことを肌で感じます。いないのではなく、知らない/知らされていないだけなのですが、実際「出会っていない」ので、ある意味仕方ない部分もあるかもしれません。
カミングアウトは簡単にできることではありませんから、この本をとおして、まずは当事者の方々の生の声に耳を傾けてほしいと思います。当事者が自らの体験を自らの言葉で綴る…… これは簡単なことではありません。皆さん、過去の傷と向き合いながらも、しかし神への信仰に支えられ、キリスト教に、教会に希望をつないでいるのです。
私自身がそうであったように、この本を読む皆さんがLGBT当事者の語りを通して神さまの深い愛に触れることを期待しています。
日本キリスト教団出版局 市川真紀
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