『こどもしょくどう』で第44回カトリック映画賞を受賞した日向寺太郎監督が、日中国交正常化50周年に日中合作で取り組んだ作品である。
原作は中国国家一級作家に認定されている周大新の同名小説である。周氏は中国の一人っ子政策のなかで生まれた一人息子を若くして亡くし、その実体験を基にして小説化している。
唐大道(ウェイ・ツー)60歳は、社会的地位も名誉も得ている作家である。自ら選んだ生き方が最も正しいと信じて疑わない。そうした自分が選んだ道を息子の英健(チアン・ユー)28歳にも進ませたいと考えていた。
英健が連れてきた恋人の張爽(ルアン・レイイン)27歳が農民出身だったことから英健の将来の為だと、大道は二人を別れさせてしまうのだった。
ある日、溺愛する息子の英健が病で倒れてしまう。病室で英健は大道に「父さんが好きなのは、自分の心の中のぼくなんだ」という言葉を遺して息を引き取った。
大道は愕然とし、息子はどんな生き方を望んでいたのかを知りだそうとする。あらゆる本を読み漁り、息子の魂を探すことに没頭する。そんな折、英健と瓜二つの劉力宏(チアン・ユー)28歳と出逢う。劉力は降霊術者を名乗っていた。大道は劉力に近づき、英健の魂を呼んでもらいながら、息子との再会をするのだった。
日向寺監督は次のようなメッセージを届けてくれている。
「悲しみ、無念、後悔、絶望等々、渦巻きのように様々な感情が押し寄せる中、父親は亡くなった息子と向き合い、自身の人生を省みる。その姿を通して、残された者がどのようにして再び生きる力を得るのかを描きたいと思った。そしてそのことは、親子とは、死とは、魂とは、いのちのつながりとは、という根源的な問いに向き合うことだった。」
われわれは2022年の現在、新型コロナウィルスの感染に怯えている。それは、自らの死に対する怖さだけではなく、コロナに感染して亡くなるとき、近親者が死に目にも会えないという現実に直面するという絶望とも重なり合っている。
現代の世の中は、生者と死者が隔絶され、死者が忘れ去られていたことを、いみじくも顕在化しているかのようだ。
この映画は、父親が息子(死者)と共に生きていくことで、将来につなげる希望を与えてくれている。日向寺監督の言う「再生の力」は、亡くなった者を忘れずに、もっと言えば、「歴史への眼差し」を真剣に考えて行かなければならないだという提起のようにも観ることができる。
鵜飼清(評論家)
2022年1月15日より岩波ホールほか、全国順次ロードショー
公式ホームページhttps://ankon.pal-ep.com/
スタッフ:監督:日向寺太郎/原作:周大新/脚本:冨川元文
出演者:ウェイ・ツー、チアン・ユー、ルアン・レイイン、北原里英、チェン・ジン
製作:河南電影電視製作集團、秉徳行遠影視傳媒(北京)、パル企画、大原神馬影視文化発展、浙江聚麗影視傳媒、北京易中道影視傳媒/配給:パル企画
©2021「安魂」製作委員会
(2021/中国・日本/108分)