人生、百年時代と言われるそうだ。平均寿命の延びにはすごいものがある。寿命が延びたと言っても、これは「健康寿命」を延ばしていないと話が続かない。夫婦のどちらかが寝たきりで、介護をしながらの余生とは違う。
この映画の主人公たちも、一応すこやかな毎日を過ごしている。
大原真一(橋爪功)と千賀子(高畑淳子)は、来年には結婚50年を迎える熟年夫婦である。真一は定年退職して10年近く経つ。典型的な亭主関白として描かれ、妻の千賀子とは夫婦喧嘩ばかりの日々を送っている。
千賀子は頭が固く面白味のない夫のことは相手にせず、趣味の健康コーラスでストレス発散をしている。独身の娘・亜矢(剛力彩芽)が同居していて、亜矢はどちらかというと千賀子の味方である。真一が持ってきた見合いの話を断るなど結婚をする気はない。
真一のイライラは募るばかりで、友人の麻雀仲間たちと、妻に対する愚痴を言い合っている。
亜矢はキッチンカーで仕事をしていて、客として訪れた青年・菅野涼太(水野勝)と出会う。涼太は葬儀社に勤めていて、近々開催される終活フェアのチラシを受け取った。亜矢は、母・千賀子に終活フェアを勧めてみることにした。
初めて訪れた終活フェアで、千賀子はカルチャーショックを受ける。終活とは死に支度ということではなく、これまでの人生を整理し、残された人生を明るく楽しく生きるための手段だと説明されたからだ。「青春」ならぬ「熟春」という言葉に感銘を受けた千賀子は、涼太が企画を担うメモリアル映像サービスを受けることになる。
夫婦のこれまでの軌跡を振り返るメモリアル映像サービスのために、古いアルバムを引っ張り出し、若かりし頃を思い出す千賀子。亜矢と涼太に夫・真一との甘酸っぱい馴れ初めを語りはじめる。真一との出会い、そして出産。真一との瑞々しい時代を回想することで千賀子の心は不思議と癒されていくのだった。
しかし、そんな妻の気持ちを一切知らない真一は、終活という行為に対して激怒する。涼太との関りを拒否するだけではなく、葬儀社の営業マンという職業自体も「不吉だ」と否定する。
「君の父親は、君のやっていることを知っているのか?」
「自分の仕事に誇りを持っているのか?」
そう真一から問われた涼太は、答えに窮してしまう。それは父親・敬一(西村まさ彦)との間に確執があったからである。闘病中だった母の延命治療を拒否した父親を許すことができず、実家を飛び出してしまった。それ以来、父親とは連絡を絶っていた。
思いの欠ける真一の言動に千賀子が激高し、大喧嘩となる。仲違いしたまま、千賀子はコーラス教室へ行くが、コーラス仲間との夫の愚痴ぶちまけランチ会で意識を失って倒れてしまう。
ベテラン俳優の演技力がこの映画を魅力あるものに仕立て上げている。真一と千賀子のやりとりは、どこにでもあるであろう夫婦のやりとりであり、それは傍から見れば漫才にも思えてしまう。日常の生活を、ふと等身大で覗いてみるといった面白さがあふれている。
さて、ならばどのように終活すればいいのか。それはわれわれがそれぞれに探し出さねばならない・・・・。
映画で教えられるのは、敬一が葬儀社に誇りを持つようになるきっかけであり、それがなんだったのかということであろうか。家族とは、血縁関係でのみ考えるのではなく、そこに集まってくる人間同士で影響し合う集合体であるということだろう。
いまコロナ禍で自粛時間が増え、家族で過ごす時間が多くなっている。家族の在り方を考えてみるのにも都合のよい映画となっているように思えた。
(鵜飼清、評論家)
5 月 21 日(金)全国ロードショー
公式ホームページ:https://oshu-katsu.com/
脚本・監督:香月秀之 主題歌:財津和夫
出演:水野勝 剛力彩芽 松下由樹 / 藤吉久美子 大島さと子 増子倭文江
袴田吉彦 佐々木みゆ 小林綾子 螢雪次朗 大和田伸也 石丸謙二郎 金田明夫
西村まさ彦 石橋蓮司 / 高畑淳子 橋爪功
製作幹事: フォワードインターナショナル 企画・製作プロダクション:フレッシュハーツ 配給:イオンエンターテイメント (C)2021「お終活」製作委員会 上映時間:1時間53分