アート&バイブル 65:聖ヨゼフと幼子イエス


グイド・レーニ『聖ヨゼフと幼子イエス』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

エジプトに避難する聖家族(マタイ2:13~15参照)をテーマにした絵では、エジプトに避難する途中に休息する姿を描くものが多く、幼子がマリアに抱かれ、ヨゼフはその近くにいるというような構図です。それに対して、バロック期イタリアの画家グイド・レーニ(Guido Reni, 生没年1575~1642)の作品は、ヨゼフが幼子イエスを抱いているものです。この二人の間にとても親密で、愛情深い雰囲気がただよっているように思います。

ちなみにヨゼフが白髪の老人に近い姿で描かれるのは、新約聖書外典『ヤコブ福音書』の影響ではないかと思われます。この書で、ヨゼフは先妻と死別した男やもめで、先妻との間に子どももいたなどということが書かれていたそうです。

ところで、今の福音書に「イエスの兄弟たち」という表現が出てきますが、これは当時、従兄弟や同年代の近い親戚を区別する言葉がなく、兄弟姉妹と呼んでいた習慣があったからです。考えてみると、マリアや生まれたばかりの幼子を連れて、身寄りもいないエジプトに避難するというようなこと、しかもこれを迅速に大胆に行っていることを考えれば、ヨゼフもマリアの夫にふさわしい年齢であったと考えるほうが自然と思われます。

 

グイド・レーニ『聖ヨゼフと幼子イエス』(1620年頃、サンクト・ペテルブルグ エルミタージュ美術館所蔵)

【鑑賞のポイント】

(1)ヨゼフの表情は慈愛に満ちています。幼子イエスは左手に小さな花をもっていますが、ヨゼフが「さあ、そのお花をお母様に見せてあげようね」と語りかけているように見えます。

(2)幼子イエスはヨゼフの白く長いあごひげに手を伸ばして触れています。子どもにはひげがとても不思議なものに思えるのでしょう。

(3)遠景に天使とロバに乗っているマリア(腕にはイエスがいるはずですが)が描かれています。エジプトへの避難の旅の絵には、たびたび天使が聖家族を助けたり、慰めたりしている場面が描かれていますが、旧約聖書のトビト記に登場するラファエルが旅の間、若いトビアを守り導いたことと併せて考えてみると、この聖家族の旅がやはり多くの苦難、困難、危険を伴っていたことが想像されます。

 


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