ジョヴァンニ・ベッリーニ『キリストの復活』
稲川保明(カトリック東京教区司祭)
作者ジョヴァンニ・ベッリーニ(Giovanni Bellini, 生没年1430/35~1516)は、イタリア・ルネサンス期にあって、ヴェネツィア派隆盛の第一期を代表する画家の一人です。父ヤコポ・ベッリーニ(Jacopo Bellini, 1400頃~1470頃)、兄ジェンティーレ・ベッリーニ(Gentile Bellini, 1429~1507)も有名な画家で、またパドヴァ派のマンテーニャ(Andrea Mantegna, 1431~1506)とは義兄弟にあたるなど、ベッリーニ家は画家一族でした。
ジョヴァンニは、彼に続いてヴェネツィア派の最盛期を築いたジョルジョーネやティツィアーノを生む下地を作った画家であるといわれます(アート&バイブル 14参照)。
さて、キリストの復活を告げる福音書本文のうち、マタイ福音書28章1節以下によると――、安息日が終わって、週の初めの日の明け方に、マグダラのマリアともう一人のマリアが墓を見に行きます。すると、大きな地震が起こります。主の天使が天から降って近寄り、石をわきへ転がし、その上に座ったのでした。その姿は稲妻のように輝き、衣は雪のように白かったのです。番兵たちは、恐ろしさのあまり震え上がり、死人のようになりました。
その天使は婦人たちに言います。「恐れることはない。十字架につけられたイエスを捜しているのだろうが、あの方は、ここにはおられない。かねて言われていたとおり、復活なさったのだ。……」。婦人たちは、恐れながらも大いに喜び、急いで墓を立ち去り、天使にいわれたように、弟子たちに知らせるために走って行きます。
【鑑賞のポイント】
(1)キリストの復活の場面を描いた作品は多くありますが、いつくかの類型に分けられます。
①三人の女性と天使が会話している様子を描くもの(イエスの姿は描かれていない)
②イエスが墓(棺)の蓋を開けて出てくる様子と、それに驚く兵士たちの様子を描くもの
③イエスが復活して空中にいる様子を描くもの
ジョヴァンニ・ベッリーニのこの作品は、③のタイプのもので、イエスが空に浮かんでいるような姿で描かれています。これは、地上の権力や支配の及ばない、神の世界での出来事として描いているのでしょう。
(2)不思議なことに彼は、復活したイエスの体に傷(手足やわき腹の傷)を描いていません。もはや、だれからも傷つけられることがない存在としてイエスを描いているのでしょう。
(3)下には驚愕し、慌てている兵士たちの様子が描かれていますが、遠景には、マグダラのマリアたち数人が墓に近づいている様子が描かれており、よく見ると(復活のシンボルである)ウサギが枝の間に描かれています。