今、子ども食堂が増えているといいます。子どもの貧困に対処するために、子どもたちに無料であったり、低価格であったり、夕食を提供する場ですが、それだけでいいのかなと常々考えていました。そんな中、横浜市の鶴見区で「多世代交流kodomonoie」の存在を知りました。
コンセプトは、「生きる力」を育む家。モンテッソーリの教育理念を基に、独自のプログラムを準備して、近隣地域の中で多世代が交流しながら子どもたちの居場所づくりを行うことを目指しています。
モンテッソーリ教育とは、どのような教育かをご存じでしょうか。端的に言えば、イタリア出身の医師マリア・モンテッソーリ(1870~1952)によって生み出された教育法です。モンテッソーリは、ローマ大学の医学博士号を女性として初めて取得した人で、大学卒業後、知的障害を持つ子どもの教育に取り組み、知能向上させることに成功しています。彼女は知的障害者の教育方法を障害を持たない子どもの教育にも生かせるのではないかと考え、1907年に貧困層向けのアパートの一室に開設された「子どもの家」という保育施設の監督・指導に従事します。そこから生まれた教育法がモンテッソーリ教育です。
では、実際にモンテッソーリ教育とはどのようなものなのでしょうか。モンテッソーリ教育で大切にして生きるキーワ-ドが3つあります。「自主性」「敏感期」「整えられた環境」です。
まず自主性ですが、子どもが自分のやりたいことを選び、自分でできたという気持ちを育むことです。自分の気持ちで身の回りのことを自分でできるようになります。次に敏感期ですが、子どもには、大人の手を借りずにひとりで物事をやってみたくなる時期があります。何をやってみたくなるのかは子どもの発達段階によって異なりますが、その時期を大切な時期としています。モンテッソーリ教育では子どもの自主性に重きが置かれています。教育者の役割は、その自主性を養うために、知識を詰め込んだり、命令に従わせたりするのではなく、子どもの自主性が発揮できる整った環境を準備することです。
「多世代交流kodomonoie」に話を戻しましょう。対象になる子どもたちは幼稚園年長から小学校3年生です。月曜日から木曜日、学校が終わると、子どもたちが集まってきます。まずは宿題をやり、その後、各自がやりたいことを選び、そのテーマで“お仕事”をします(モンテッソーリでは“作業”のことを“お仕事”といいます)。取材に伺った日は、七夕飾りの準備をしていました。それぞれの子どもたちがそれは熱心にお仕事をしていました。そして、17時30分から先生たちが手作りした夕食を一緒に食べて家路につきます。
ここで子どもたちに指導している千葉さんと丸山さんに、自主性についての話を伺いました。ここでは月に2回午前中に未就園児の親子を対象に、モンテッソーリ教育理論をお話ししているそうです。ある日、ゴマをする“お仕事”をする準備として、手を“洗う”ことからはじまりました。子どもたちは、液体石鹸に慣れていて、固形石鹸での手の洗い方を知りません。まずは丸山先生が見本を示し、ていねいに指の間まで石けんを泡立ててつけ、洗い方から、タオルでの拭き方まで教えると、子どもたちは熱心に見て、やり方を吸収し、同じようにはじめます。母親のほうもまるで初めて見るように熱心に見ているそうです。そして、ゴマをするお仕事もていねいにやって見せます。その間子どもたちは、じっとそのお仕事に集中して見ています。大人の言うことを聞かないと思われる子どもたちが、静かに見ることができます。そして、見たことをしっかりと吸収して自分でやるという気持ちが育ち、自主性が芽生え、お仕事をしていきます。
このほか、月に2回未就園児とお母さんを対象にしたカフェが午前中に行われ、そこでは、育児に対する相談や情報交換が行われます。ほかにも月1回、ウブラージュといって、裁縫教室も行われています。
子どもだけでなく、母親にも優しい「こどものいえ」で、すくすくと想像豊かな子どもの発育を見るような思いをしました。
こどものいえでは、多世代の交流を目指し、さまざまな活動をしています。ぜひ、ホームページをご覧になってみて、足を運んでみてはいかがでしょうか。
(中村恵里香/ライター)
多世代交流こどものいえ公式ホームページ:https://tasedai-kodomonoie.amebaownd.com/