ラザロと聞いてすぐに聖書を思い浮かべる人がどのくらいいるのでしょうか。たぶんそういう方は、キリスト教を知り、聖書を読んでいる人ではないでしょうか。聖書の中では、ヨハネによる福音書11章1～44節で描かれた「ラザロの復活」と、ルカによる福音書16章19～31節の「金持ちとラザロ」のたった２カ所に出てくる人物です。そんなラザロを現代によみがえらせ、私たちに大きな問いかけをしている映画が公開されます。
舞台は、イタリアの片田舎、渓谷の中にあり、外の世界と隔絶された小さな村、インヴィオラータ村です。日本語に訳すと「汚れなき村」といわれるこの村の人たちは大洪水の名残を受けて深い渓谷に隔てられ、外の世界を知りません。丘の上には領主であるデ・ルーナ侯爵夫人（ニコレッタ・ブラスキ）の邸宅がそびえ立ち、村人たちは侯爵夫人の小作人としてタバコ農園で働いています。監督官のニコラの采配で、減ることのない負債を抱えたまま、食べる物にも事欠く有様でした。
彼らの中で誰よりも働き者の若い農夫、ラザロ（アドリアーノ・タルディオーロ）がいます。彼は親を知らず、肉親と呼べるのは祖母１人です。ラザロはお人好しすぎるあまり、村人から軽んじられ、小さな村の中で、領主が村人を搾取し、村人がラザロを搾取するという構図が生まれていました。
ある時、侯爵夫人と美しい息子タンクレディ（ルカ・チコヴァーニ）が町からやってきます。タンクレディにご執心のニコラの娘、テレーザも一緒です。タンクレディは、田舎の村にいることを嫌い、母親に反抗するため、ラザロを仲間に引き入れて自身の誘拐騒ぎを演出します。山の中にあるラザロの隠れ家にタンクレディは身を隠し、身代金の届くのを待っていますが、侯爵夫人は、タンクレディの自作自演だと見抜き、相手にしません。ラザロはタンクレディのために食事を届けます。タンクレディがラザロに「俺たちは兄弟だ」といったことで、いつしか二人は強い絆で結ばれるようになります。
ある日、ラザロは高熱があるにも関わらず、タンクレディのために食事を届けようとして、山から谷底へ落ちてしまいます。
その頃、誘拐されたタンクレディを心配したテレーザは、警察に通報します。その通報によって、インヴィオラータ村の存在が、警察に知られます。そして、領主による大規模な労働搾取の事件現場として世の中に報道されます。結局村人たちは、揃って住み慣れた村から出ることになりますが、ラザロだけはその場にいません。
年月が経ち、村は廃墟となり、ラザロは、野生のオオカミによって目覚めます。村でタンクレディを捜しますが、侯爵夫人の家も廃墟と化しています。ラザロはタンクレディを捜し、町に出て行きます。そこで、かつて農園でともに暮らしていたアントニア（アルバ・ロルヴァケル）と出会います。
長い年月をへて戻ってきたラザロをアントニアは受け入れますが、その純粋無垢な様に戸惑いを感じます。ここから観てのお楽しみです。ラザロはタンクレディと出会えるのか、そして結末は……。「ヨハネによる福音書」に描かれている復活を思い浮かべるこの映画ですが、この作品の中には奇跡も起こりませんし、巨大な権力も出てきません。生きていく上で、もっとも大切なこと、誰のことも疎まず、信じきることの尊さを教えてくれる映画です。寓話的な物語の中で、人間とは何かを考えさせてくれる映画でもあります。
もうひとつこの映画で驚きだったのが、小作人制度という、日本ではとっくの昔になくなっている制度が1980年代までイタリアには存在し、実際にインヴィオラータ村のような半奴隷制度のようなことが行われていたという現実です。
そしてもうひとつ大きな鍵となるのがオオカミです。このオオカミの存在が私たちに訴えかけてくるものがあります。ぜひ、劇場で、この静かな美しい映像の映画を見てください。
（中村恵里香／ライター）
４月19日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
公式ホームページ：http://lazzaro.jp/
監督・脚本：アリーチェ・ロルヴァケル
キャスト：アドリアーノ・タルディオーロ、アルバ・ロルヴァケル、ニコレッタ・ブラスキ、ルカ・チコヴァーニ、セルジ・ロペス
配給：クレストインターナショナル
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紹介文を読んでラザロの人物像に興味を持ちました。見てみたい映画です。