ポリオウイルス感染による病というのをご存じでしょうか。昔日本では小児まひといわれる病気がありましたが、それもポリオウイルスの感染によるものでした。今回ご紹介する映画は、ポリオウイルスにかかり、首から下が全身麻痺となったロビン・カヴェンディッシュの物語です。カヴェンディッシュという名を聞いてピンと来る人は相当な映画好きです。『ブリジット・ジョーンズの日記』や『エリザベス』などの話題作のプロデューサー、ジョナサン・カヴェンディッシュの父親の物語です。
たくさんの男性から求愛されながらすべて断ってしまう誇り高く美しいダイアナ(クレア・フォイ)は、
双子の兄(トム・ホランダー)の反対を押し切り、知り合ったばかりの財産もないロビン(アンドリュー・ガーフィールド)と結婚をします。
1958年、紅茶用の茶葉の仲買を始めたロビンは、ダイアナとともに買い付けをするため、ケニアを訪れます。間もなくダイアナは妊娠し、2人は幸せを謳歌します。翌年、ロビンが突然身体の不調を訴え、病院に担ぎ込まれます。診断の結果は、ポリオでした。首から下は完全に麻痺し、人工呼吸器がなければ息もできない状況で、「余命数カ月」と診断されます。
1960年、無事に男の子を出産したダイアナは、ロビンを連れ、イギリスに帰国します。専門病棟に入院し、人工呼吸器につながれる生活で、ロビンは死を願います。ジョナサンと名付けられた子どもの顔も見ようともせず、死ばかり願うロビンを、ダイアナは毅然とした態度で励まし続けます。ダイアナが「私に何かできるはず」と訴えると、ロビンは「ここから出たい」と口にします。
ロビンの願いを実現するため、古い一軒家を格安で購入し、人工呼吸器の操作を看護師から学び、「退院すれば2週間で死ぬ」という医師の意見を無視し、ロビンを退院させます。ダイアナの双子の兄、息子、愛犬ベンジーに迎えられ、自宅での生活が始まると、暗く沈んだ様子から、元の明るい様子に変わっていきます。
ある日、ジョナサンが自分の乳母車を押している様子を見て、人工呼吸器付きの車いすが作れるのではないかと考え、友人で大学教授のテディ(ヒュー・ボネヴィル)に依頼します。テディは見事手作りで車いすを発明し、完成させます。そこで、彼は、病気になる前のように活動的になっていきます。車いすが乗せられるようにと自動車の改造を依頼し、行動範囲を広げていくのです。
1971年には、外国に行ってみたいというジョナサンのために車ごと貨物飛行機に乗り込んでスペインに旅立ちます。スペインでは人工呼吸器がショートしてしまい、テディを呼ぶことになりますが、そこで、見知らぬ人たちからの温かな援助により、生きる喜びを味わうことになります。
また、クレメント・アトキン医師(スティーブン・マンガン)との出会いにより、改良した車いすを増産
し、同じ病の人たちや自分と同じような境遇にある人たちに人生の幸せを取り戻してもらいたいと、動き出します。
病になったとき、死にたいといっていたロビンが前向きに生きる姿を、ぜひ劇場で見てください。運命は変えることができないかもしれませんが、生き方を変えることで、人生はどんな形であれ、心底楽しむことができるのではないでしょうか。「ただ、生き抜くのではなく、人生は生きるためにある」とこの映画は教えてくれます。最後にこれまでの人生が楽しかったといえるにはどうしたらいいかもこの映画は示唆しています。
(中村恵里香/ライター)
監督:アンディ・サーキス/プロデューサー:ジョナサン・カヴェンディッシュ/脚本:ウイリアム・ニコルソン/美術:ジェームズ・メリフィールド/撮影:ロバート・リチャードソン/衣装:シャーロット・ウォルター/ヘア&メイク:ジャン・セウェル/編集:マサヒロ・ヒラクボ
出演:アンドリュー・ガーフィールド/クレア・フォイ/トム・ホランダー/スティーヴン・マンガン/ディーン=チャールズ・チャップマン/ハリー・マーカス/ベニー・ダウニー/ヒュー・ボネヴィル/デビッド・ウィルモット
原題・英題 :Breathe/2017年/イギリス/英語/カラー/5.1ch/スコープ/118分/字幕翻訳:松浦美奈
コピーライト :© 2017 Breathe Films Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute. All Rights Reserved
2018年9月7日(金)角川シネマ有楽町他全国ロードショー
公式サイト :http://breath-movie.jp