2018年度の日本カトリック映画賞は、この作品『ブランカとギター弾き』に授与されることになった。
1年前の封切の時に、私はすでにこの作品を銀座の映画館で観ていて、その時は「おっ、なかいいじゃん」と思っていたのではあるが、いざ日本カトリック映画賞受賞となると、ちょっと意外な気がしたのである。断っておくが、それはけっして作品の出来不出来という観点でではなく、受賞対象としての条件面においてである。
まず、この映画のストーリーの舞台なのだが、日本ではなくフィリピンなのである。登場人物も全員フィリピン人であり、それを演じる俳優も当然のことながらみんなフィリピン人である。日本人は一人も出てこない。さらに加えてこの映画、制作国さえ日本ではない。なんとイタリアなのである。ジャパニーズなのは、長谷井宏紀監督(と脚本の大西健之氏)だけなのである。
また、カトリック国フィリピンが舞台であるにもかかわらず、シスターの姿がちょろっと映っているだけで、教会も神父も登場しない。スクリーン上に見出せるカトリック的なアイテムといえば、ブランカが首からぶら下げたロザリオくらいのものである。
こんなに不利な条件が揃っていながら、よくぞ難関を潜り抜け、「日本」「カトリック」映画賞を受賞することが出来たものだと、感心してしまう。
監督の長谷井氏だが、セルビアの巨匠エミール・クストリッツァ監督の主催する映画祭で、短編がグランプリを受賞したのをきっかけに映画を作るようになったそうで、本作品も、日本人として初めてヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画祭の全額出資を受けて制作された映画であり、ヴェネツィア、フリブール、カルカッタ、サンタンデール、シネジュヌ、テルアビブ、オリンピア、リムースキ、シネキッド、キノオデッサ、プロヴィデンス、キキーフの各国際映画祭で高い評価を得ている、きわめてインターナショナルな新人日本人監督なのである。
『ブランカとギター弾き』は、フィリピンの大都会マニラのスラム街を舞台に、段ボールハウスに暮らす孤児の少女ブランカと、盲目のギター弾きピーターとの関わりを描いた、ハートウォーミングなロードムービーである。孤独を抱えながらそれを表に出さない勝気な主人公ブランカは、スリを生業にしていたが、やがて母親を金で買うことを思いつき、偶然出会った路上のギター弾きピーターとともに旅に出る。見知らぬ街で、ピーターが勧めるままに歌をうたっていたブランカは、たまたま通りかかったレストランの支配人に認められ、仕事を得てお金を稼げるようになる。しかし幸運もつかの間、店の売上金を盗んだという濡れ衣を着せられ、追い出されてしまう。心ならずも少年窃盗団(かわいいものだが)に引き入れられ、泥棒稼業に戻ってしまったブランカに、さらに思いもよらぬ危険が迫ってくる。危うしブランカ! 急げピーター‼
…とまぁ、ストーリー展開には既視感がないわけではない。しかし、予定調和も本作では良い方に働いていると思われる。仮にそれを差し引いたとしても、マニラのスラムでスカウトされたピーターや子どもたち素人役者のキャラクターが抜群に素晴らしく、また愛おしく、生きることへの肯定感や人間の信頼性がスクリーンいっぱいに醸し出されていて、『日本昔ばなし』じゃないけれど、「人間ってい~な~」と再認識させる説得力に満ち溢れており、少なくともこの点においては、『ブランカとギター弾き』はきわめてキリスト教的な映画だと言えよう。
日本カトリック映画賞受賞もむべなるかな、なのである。
(伊藤淳、カトリック清瀬教会主任司祭)
日本カトリック映画賞の受賞式は2018年5月12日に東京・中野ZERO大ホールにて行われます。
チケットは聖イグナチオ教会案内所、スペースセントポール、サンパウロ書店、ドン・ボスコ社、天使の森で販売しています。
もしくは、SIGNIS JAPANのホームページからも申込みができます。
メールでのお申し込みは、info@signis-japan.orgまでお願いいたします。