フラ・アンジェリコ『玉座の聖母子』
稲川保明(カトリック東京教区司祭)
フラ・アンジェリコには「べアート(至福の人)」という呼称が冠されることがあります。これは彼を讃えるものですが、カトリック教会は正式に彼を「福者」としたことがなかったにもかかわらず、「ベアート・アンジェリコ」の呼称は広く流布されていました。ヨハネ・パウロ2世はこの現実に気付き、1982年10月3日、正式に彼を「福者(べアート)」に列しました。名前の通り、彼の描いた作品は、見る人を祈りに誘います。心に清らかな光を受けたように感じられるのは、祈りながら描いた彼の生活に根ざしていると思います。
彼の代表作品は、今もフィレンツェのサン・マルコ(修道院)美術館で見ることができ、修道院の各部屋に仲間の修道士の祈りの題材を描いたという点でとてもユニークな修道院・美術館です。またこの修道院に世界で一番、有名な「受胎告知」のフレスコ画があります。
【鑑賞のポイント】
(1)幼子イエスの頭の後ろに描かれている光背には赤い十字架があり、フラ・アンジェリコの作品の特徴となっています。
(2)子イエスは右手をあげ、2本の指を立てて祝福を与える姿です。左手には赤いバラの花を一本携えています。
(3)左右に立つ天使たちがバラの花が入った籠を捧げており、これはイエス・キリストの与える祝福が数多く用意されていることを示しています。
(4)左右に立つ天使の服の色彩も赤(愛と情熱)と青に金の星(知性・落ち着き)というマリアの服と同じ色彩で描かれています。
(5)イエスを抱きかかえる聖母の顔も、幼く見えるほどに若く、お告げの時のマリアが少女に近い年齢であったことが伺えます。
(6)フラ・アンジェリコの描く天使は、清らかで、かつ女性の姿です。天使を女性の姿で描くことはフラ・アンジェリコの残した影響の一つです。
(7)天使の服や羽根は鮮やかな色彩で描かれており、また額には聖霊の炎が描かれています。