日本カトリック映画賞という賞があるのをご存じでしょうか。日本カトリック映画賞は、1976年以来、毎年1回、前々年の12月から前年の11月までに公開された日本映画のなかで、カトリックの精神に合致する普遍的なテーマを描いた優秀な映画作品の監督に贈られるものです。今年も受賞作が発表されました。「この世界の片隅に」です。
かなり話題になっている作品でもありますし、すでにご覧になった方も大勢いらっしゃるでしょう。アニメーション映画だからと敬遠されている方もいらっしゃるかもしれません。そんな理由で敬遠されている方々にぜひ見ていただきたい映画として紹介させていただきたいと思います。
昭和8年から終戦後すぐまで、広島県広島市江波に住む本当にどこにでもいそうなちょっとドジで、絵の大好きな少女が軍港の町・広島県呉市に嫁ぎ、第二次世界大戦中にどのように生き、何を感じたかということを、こうの史代の原作を元に忠実に再現したアニメーション映画です。
この映画は、決して声高に反戦を歌っている映画ではありません。本当にほんわかした雰囲気の中、いのちとは何か。戦争とは何かを問いかけています。
主人公すずの夫周作が4年生の頃、世界で軍縮が決まり、海軍で働く人たちは職を失います。その当時のことを思いだし、「大事じゃと思っとったあの頃は、大事じゃと思っていたが、大事じゃと思っていた頃が懐かしい」と母の言う言葉。
絵を描くことの好きな主人公すずは、丘の上の畑で、呉港に停泊している軍艦の様子を何気なくスケッチしていると憲兵に見つかり、諜報活動をしているとつるし上げを食います。普段のすずを知らない人は、軍港の絵を描いているだけで、大まじめに諜報活動だと決めつける世の中が戦争です。戦争というものがいかに人びとを傷つけ、尊いいのちが失われるかを描いています。
毎日、何回も空襲に襲われる呉の町ですが、6月呉工廠造兵部が空襲に襲われ、姪の晴美を失い、自身も右手を失っても、けなげに生きようとします。それに追い打ちをかけるように広島に原爆が落ちます。父や母、妹を心配するすずですが、右腕をなくしたすずは広島まで行くことはできませんでした。
そして8月15日、終戦を迎えます。終戦の詔勅はすずに大きな衝撃を与えます。
「あっけのう人はおらんようになる。おらんようになると言葉が届かんようになる。飛び去っていく。うちらのこれまでが。それでいいと思ってきたものが。がまんしようと思ってきたことが。(中略)ぼうっとしたうちのままで死にたかった」
これがすずの終戦を迎えた際の本音です。
今も世界のどこかで戦争が行われています。それは国と国だったり、民族同士の戦いだったりしています。本当に戦争は必要なのか。なぜ人と人が戦わなければいけないのか。
軍港の町呉を舞台にした庶民の生活から今を考えてみてはいかがでしょうか。
日本カトリック映画賞の授賞式が5月20日土曜日12時30分からなかのZERO大ホールで行われます。上映後、受賞式とトークが行われますので、ぜひ足を運んでみてください。
チケットは聖イグナチオ教会案内所、スペースセントポール、サンパウロ書店、高円寺教会天使の森、ドン・ボスコ社で扱っています。
そこまで足を運べないという方は、SIGNIS JAPAN公式ホームページhttp://signis-japan.orgよりお問い合わせください。
監督・脚本:片渕須直/原作: こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊)/音楽:コトリンゴ/企画:丸山正雄/監督補・画面構成:浦谷千恵/キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典/美術監督:林孝輔/プロデューサー:真木太郎/製作統括:GENCO/アニメーション制作:MAPPA/配給:東京テアトル/製作:「この世界の片隅に」製作委員会/©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
公式ホームページ:Konosekai.jp
出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外(特別出演)