初めまして。僕は若き日に作家・遠藤周作の文学に出逢い、自分の人生を決定づける贈り物をもらいました。遠藤周作は小説家として多くの伝言を残していますが、僕は詩を書くことで僕なりのメッセージを伝えていければと願い、今日も詩を認(したた)めています。
遠藤周作(1923~1996)は母親の影響により11歳でカトリックの洗礼を受け、生涯にわたり日本人におけるキリスト教のあるべき姿を模索した人です。『白い人』で芥川賞受賞、『沈黙』などのキリスト教文学、狐狸庵先生シリーズといったユーモアのある作品などさまざまな表現方法で、人間の心の弱さに夕陽のような温かなまなざしを注ぐ文学世界を描いています。
この連載の始まりとして、僕は〈縁(えにし)〉というものに想いを馳せています。遠藤周作の作品群は今も〈何か〉を語りかけており、その働きは読者の人生を密かに変えるかもしれません。妻である順子夫人はある雑誌の対談で、「主人は縁を大事にする人でした」と語っていました。縁は目に見えない、目には見えないながらも、確かにあるのです。
もし、この一度きりの人生が一つの物語であるならば――登場人物であるあなたと引き合うように結ばれるいくつもの縁の糸によって、あなたの物語は織りなされてゆくことでしょう。僕達が歩む日々は、晴れの日もあれば雨の日もある。しかしながら、(私は世界にただ一人の登場人物である)と、心の中で何度か呟いてみると、人生は思った以上にワクワクしたものになるかもしれない……という予感が芽生えるのです。
遠藤周作が世を去ってから20年の歳月が流れました。僕はふと思うのです。〈あなたは天に入った今も、ペンを持っているのでは?〉と――。まずは、この文を書いている僕も、読んでいるあなたも、〈私は物語の登場人物の一人である〉ということを信じてみよう。そう心の底から信じる時、あの日、天に入った遠藤周作の手にするペンは、再び動き始めるかもしれません。(敬称略)
(服部剛/詩人)