人は誰しも人生の終焉を迎えます。子どもたちは、その終焉に向かう両親にどのような手助けができるのか。そんなことを考えさせられる映画に出会いました。ドキュメンタリー映画「ふたりの桃源郷」です。
この映画は、山口放送開局60周年を記念して公開された映画ですが、そもそもはNNNドキュメンタリーとして放送されたものです。主人公は田中寅夫さんとフサコさん御夫妻です。昭和13年に結婚し、終戦後、フサコさんの故郷に近い、山口県の山を買い、山を切りひらき、自給自足に近い状態で、三人の娘を育てていましたが、娘たちの将来を考え、寅夫さん47歳の時に大阪に転居し、タクシードライバーとして生計を立てていました。娘たちも巣立ち、寅夫さんが還暦をすぎてから、18年ぶりに山で暮らすことを決意します。山の暮らしはけっして楽ではありません。電気もなければ、水道もない生活です。でも、このご夫婦はすごく幸せそうでした。本当の幸せは何だろうとふっと考えさせられました。
畑で取れた野菜を食の中心とし、わき水で沸かしたお風呂に入り、窯で炊くごはんを食べる。人間の生活の原点がそこにはありました。でも、そんな幸せそうなご夫婦にも老いが訪れます。かけがいのない二人の時間が山の麓の老人ホームに移ります。そこには、電気もあれば水道もあり、とても快適と思えるような生活なのですが、二人は、山のことが頭から離れないのです。
そして、二人を遠くから見守る三人の娘たちの姿も象徴的です。月に一度、娘たちは、連れ合いや子どもを連れて山にやって来て、ご夫婦を支えます。本当に優しい家族愛に満ちた時間です。
自分たちの本音が違うところにあっても、父と母の意向を最大限尊重し、本当に両親を大切に思っている姿には心打たれるものがあります。
夫婦のあり方、家族のあり方をじっくり考えさせられる心あたたまるドキュメンタリー映画です。まだ全国のあちらこちらで上映しています。自主上映も受け付けています。ぜひひとりでも多くの方に見ていただきたい映画です。
公式ホームページ:http://www.kry.co.jp/movie/tougenkyou/index.html