降誕祭の歌


齋藤克弘

「グレゴリオ聖歌」シリーズが完結していませんが、今回は時節柄「降誕祭の歌」について書くことにしました。12月に入ってから、スーパーやコンビニ、あるいは商店街などでは「クリスマスソング」がBGMで流れるようになりましたね。

洗礼を受けて間もない頃、学生時代に教会の友人から聞いた話ですが、「テレビの街頭インタビューでインタビュアーが呼び込みのお兄さんに『クリスマスに教会にはいかないんですか』と尋ねたら、お兄さんは「え、教会でもクリスマスやるの』」と言っていた、という、笑うに笑えない話がありました。もう40年近い前の話ですが。日本では「クリスマス」というと、予約したケーキやオードブルを買って帰り、みんなで一緒に食べる日という印象が強いですね。

先にも触れましたがBGMで流れているいわゆる「クリスマスソング」も、たまには『讃美歌』(主に1954年版)にあるものもありますが、具体的な曲名はここでは挙げませんが、どちらかというと、クリスマスにちなんだ、ポピュラーソングやフォークソングが主流だと思います。

教会で歌われている聖歌や讃美歌で一番なじみ深い曲は「きよしこの夜(讃美歌)・しずけき(カトリック聖歌集)」でしょう。この曲は1818年に現在のオーストリアのオールベンドルフという村の小教区の助祭だったヨゼフ・モールが作詞した詩に、同じ村の音楽の先生だったフランツ・グルーバーが曲をつけて歌われたのが最初です。元の歌詞は6番まであり、最初はギターの伴奏だったそうです。巷説では、教会のオルガンが壊れたのでモール助祭が急遽、作詞してグルーバー先生がやはり速攻で作曲して、オルガンの代わりにギター伴奏で歌われたと語られていますが、現在の研究によると、そのような事実はなかったようです。この聖歌、最初はこの小さな村の小教区で歌われておしまいになりそうでしたが、さまざまな経緯からドイツ語圏に広まり、さらにヨーロッパ各地の言語に訳されて各国のことばで歌われるようになりました。

この他にも、クリスマスにちなんだ聖歌や讃美歌は数多くありますが、現在、よく歌われているものはほとんどの曲が18世紀あるいは19世紀に作曲されたものです。しかし、よく考えてみると、クリスマスはその頃ようやく祝われるようになったわけではありません。神のひとり子がおとめマリアを通してナザレのイエスとしてこの世に来られた時がその起源です。教会では最初のうちは「クリスマス」という行事は重要視されていなかったようで、現在のように12月25日という日付も定まっていませんでした。詳細を書くと長くなるので簡単にしか触れませんが、この日がキリストの誕生の祝日となったのは325年のニケア公会議の頃以降のこととされています。カトリック教会の場合は「主の降誕」が正式な名称となっています。

さて、話がだいぶ脇道にそれましたが、ナザレのイエスが生まれたその夜に歌われた重要な歌があります。それは聖書にも書かれているもので、現在もその歌詞を歌いだしとして教会では一部の主日(日曜日)を除いたお祝いの日(主日・祝祭日)には必ず歌われているもので「栄光の賛歌=Gloria呼ばれています。イエスが生まれた時に羊飼いたちにその誕生を告げた天使と天の大群が歌った歌で、現在の教会の日本語の歌詞では「天のいと高きところには神に栄光、地には善意の人に平和あれ」というものです。

そして、教会が伝統的に大切にしてきた歌、それは「主の降誕」や「主の復活」を記念するすべてのミサで歌ってきた大事な歌が「詩編」です。詩編はユダヤ教の時代に編纂されてキリスト教にも受け継がれた150編からなる歌です。ユダヤ教の時代の歌ですから、直接にイエス・キリストの名前が出てきませんし、ユダヤ教時代の神の民のさまざまな出来事が土台になっているものです。しかし、キリスト教会はこの詩編を単なる歴史の出来事に基づく歌ではなく、旧約時代の人々が、自分たちのうちに来られるであろう「キリストに関する預言」、ユダヤ教徒として生活していたナザレのイエスやイエスの弟子たちが会堂や神殿で歌った祈り、キリストが復活してから弟子たちがキリストの復活について証した聖書の歌、という理解のもとに絶えることなく歌い続けているものです。連載でお伝えしている「グレゴリオ聖歌」でも一番重要な歌詞とされているのが、この詩編ですし、「主の降誕」をはじめ、すべてのミサで、グレゴリオ聖歌では詩編が歌われなかったことは一度もありません。巷には様々な「クリスマスソング」が流れていますが、詩編こそイエス・キリストにまでさかのぼる、伝統的な教会の聖歌なのです。

「主の降誕」のミサでは、夜半のミサで詩編96が、日中のミサでは詩編98が先唱者を通して朗唱されます。皆さんもぜひそれぞれのミサで朗唱される詩編を味わい、その前後に歌う答唱句を歌って、キリスト降誕の喜びをかみしめていただきたいと願っています。

(典礼音楽研究家)

 


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