山田真人
前回の記事では、考古学を通して教会のシノドスにおける過去から学び、未来を考えるという循環を見てきました。その思考体系は、結果以上にプロセスを大事にする歴史の進め方とも言えると思います。そのような歴史の捉え方は、歴史神学や聖書の解釈学などに注目することでも明らかになります。その循環的でありながら直線的な歴史の動きは、現代のビジネスにも通用する部分が多くあります。今回はその姿を歴史神学、聖書釈義学からヒントを得て、考えていければと思います。
まず、歴史神学とは「歴史に神の何らかの介入を認めそこから歴史の根源的意味と現在的な自己の生き方や将来的な見通しなどを洞察する」(『岩波キリスト教辞典』、岩波書店)ものとされています。例えば、バビロン捕囚の際にユダヤ人は大きな苦しみを受けましたが、それは未来を生きる上での希望に逆説的に繫がりました。また、イエス・キリストが受けた受難は、最後の晩餐という食事のイメージと繋がり、私たちがキリスト者としてのアイデンティティを保つための重要な儀式であるミサとして形を残し、さらにその典礼は時代に合わせて変わっています。
歴史神学的な考え方は、単に神が介入したことを信じる一部の信徒が持つ思考方法ではなく、過去から学び現在にそれを生かそうとする人間の姿、そしてそのプロセスの中で過去・現在の点と点が繋がる神秘を感じる人間の姿に通じると思います。そう考えると、カトリック教会が持つ歴史神学の考え方は、普遍的に応用していくことができ、それが宣教に繋がるとも言えそうです。
次に、聖書釈義学についてです。 “A Dictionary of Biblical Interpretation”(R.J Coggins / J.L Houlden. Trinity Press International)によれば、フリードリッヒ・シュライエルマッハー(1768‐1834)から大きく釈義学の伝統が変わり、歴史神学的な解釈の軸と、哲学的な解釈の軸が生まれていったとされています。すなわち、神の介入をもっと哲学的な解釈で読者が自ら敷衍、応用していくことで進化していくことになりました。それが現代釈義学ではReader-Response Criticismと言われているそうです。過去に学びながら現代においてその解像度を上げていき、より良い価値を届けていくという点は、聖書を今を生きるものとして広げ、さらにそれを実践に移している修道会や教区の活動のカリスマを進化させることにも繋がると思います。
以上のように、私たちは過去の記憶を現代に循環的に反映させることで、過去の出来事の解像度を上げて豊かに捉えなおし、現代に生かすということを、信仰の中で実践しています。キリスト教徒でない人は、それを感覚的に点と点が繋がる神秘のように捉えていると思います。しかし、信仰を持つ私たちは、目には見えないけれど確実に神の介入と考えられるような働きを、聖霊と呼んでいます。
こうした言語化は、ビジネスの世界でもとても重要と考えています。例えば、『アイデア資本主義』(大川内直子著、実業之日本社、2021年)では、「インボリューション」(内へ向かう発展)という言葉を、レボリューション(改革)に対して使っています。それは資本主義が限界を迎えつつある中でも、過去にあったことの解像度を上げ、現在必要なことを考える重要性を語るための造語です。この連載のタイトルにもなっているDoing Charity by Doing Businessは、社会のニーズに応じて変えていき、利益を出し続けなくてはいけないBusinessと、利他性と社会性という時代が変わっても揺らがない人間の性質であるCharityの交差点を考察しています。その上で、私たちにとって欠かせない考え方が、実は聖霊という言葉遣いの中にあります。
最後に、このような考え方を広めるために取り組んでいる活動についてお話します。この連載では、カトリック学校の生徒との連携について多くの事例を紹介してきました。その一方で、それを理解してくれる保護者の方の姿勢も重要と考えており、生徒や保護者向けの聖書講座を通して、NPO法人せいぼの活動を紹介しています。なぜなら、聖書と向き合うことは過去の解像度を上げ、今必要なことを考える上で最も効果的で、聖霊の働きを促すことになるからであり、子どもたちの成長という未来のためには、保護者の経験が必要だからです。
是非、保護者に限らず、教会の皆様がこうした意図を持った聖書講座にご関心がございましたら、こちらから詳細をご覧ください。
山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁いのち・信徒・家庭省のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。