新しいミサの賛歌について ―「ミサの賛歌」の歴史①


松橋輝子(東京藝術大学音楽学部教育研究助手 桜美林大学非常勤講師)

2022 11 27 日 (待降節第一主日) から、新しい「ミサの式次第と奉献文」が実施されています。それに伴い、新しいミサの賛歌(ミサ曲)が3 種類準備されました(新しい「ミサの式次第と第一~第四奉献文」等の実施に向けて | カトリック中央協議会 (catholic.jp):新しい「ミサの賛歌(ミサ曲)」「ミサの式次第」の楽譜と音源について 参照)。この機会に、今回から「ミサの賛歌」について、お話を始めていきたいと思います。

宗教音楽という点では、「ミサの賛歌」よりも「ミサ曲」という言葉の方に馴染みがあるかもしれません。ミサ曲とは、ミサの式文の中から、通常式文(どのミサでも共通して唱えられる式文)である、「キリエ」、「グローリア」、「クレド」、「サンクトゥス」、「アニュス・デイ」の5部分を作曲したものです。その歴史は、グレゴリオ聖歌に始まり、現在に至るまで多くの作品が作曲されています。パレストリーナ、バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなど、ミサ曲の歴史を見れば、音楽史を概観することができるほどに、西洋音楽の重要なレパートリーを担っています。

「ミサの賛歌」とは、礼拝の中で歌われる聖歌で、「いつくしみの賛歌(キリエ)」、「栄光の賛歌(グロリア)」、「感謝の賛歌(サンクトゥス)」、「平和の賛歌(アニュス・デイ)」を指しています。典礼の式次第に従って会衆が一緒に歌うことのできるこれらの「ミサの賛歌」の伝統は、18世紀末の啓蒙思想に基づく典礼改革思想の中で、母語聖歌を礼拝に取り入れようとする動きの中で新たに生まれた「母語ミサ曲を伴うミサ Singmesse」に分類されるものです。

日本においてこれまで出版された聖歌集にも、「ミサの賛歌」は、いくつかのセットで掲載されています。『カトリック聖歌集』(1966年)には髙田三郎による「やまとのささげうた」(キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイ)が「第一ミサ」として掲載された後、サレジオ会司祭チマッティによる「第二ミサ」、ドイツやフランスの旋律に由来する「第三ミサ」、「第四ミサ」、「第五ミサ」、神言会司祭A. Rotherによる「葬式のミサ」が掲載されています。

この中でも、「第三ミサ」(『カトリック聖歌集』6167番)は、啓蒙思想の影響を受けた先駆的聖歌集として1777年にランツフートで出版された『ローマ・カトリック教会での礼拝のための聖歌集 Der heilige Gesang zum Gottesdienste in der römisch-katholischen Kirche』に収録されており、母語聖歌を典礼に取り入れるために作られた最初期の作品です。この聖歌集はドイツ北部の多くの司教区で認可され、再販されたため、極めて影響力が強く、この聖歌もまた「母語ミサ曲を伴うミサSingmesse」の代表的作品として広く流布しました。

日本の聖歌集に、最初に掲載されるのは、1918年の『公教會聖歌集』であり、その後の聖歌集にも伝承されています。ここで、この「ミサ賛歌」に含まれる「62. 天にみさかえ(栄光の賛歌)」に注目したいと思います。

栄光の賛歌(栄光頌、グローリア)は典礼式文に含まれており、この聖歌は当時、司祭がラテン語の式文を唱えるのと並行して会衆によって歌われたことが考えられています。栄光頌の式文はルカ2:14(「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ。」)で始まり、その後、天の父である神への賛美、子である神への賛美、聖霊への賛美、という三位一体の神の聖性への賛美が記述されますが、その構成はこの聖歌でも同様です。

 まずは原曲の歌詞を見てみましょう。

Gott soll gepriesen werden, 神が賛美されますように。

sein Nam’ gegebenedeit その御名が祝福されますように。

im Himmel und auf Erden, 天でも地でもほめたたえられますように。

jetzt und in Ewigkeit! 今もとこしえに!

Lob, Ruhm und Dank und Ehre 三位の神に賛美、

sei der Dreieinigkeit! ほまれ、感謝、栄光がありますように。

Die ganze Welt vermehre, 全世界が、

Gott, deine Herrlichkeit! 神よ、あなたの栄光を、崇めますように。

 

続いて、日本の聖歌集に掲載された最初の歌詞は以下の通りです。

天には神に御栄光あれ

地に棲む人は

平安かなれ

あまつ聖使の

歌唱に添えて

我等も御稜威

崇めまつる

『公教會聖歌集』(初版、1918年)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カトリック聖歌集51-81 - フランシスコ会札幌修道院 (ofmsapporo.jp)

日本語聖歌の歌詞は、ルカ2:14 の言葉で始まる点では、ドイツ聖歌と一致していますが、三位一体の神への賛美は行われません。むしろ、ルカ2:13(すると、突然、この天使に天の大軍が加わり、神を賛美していった。)を踏まえたテクストとなっています。この歌詞の伝統は、そのまま現在の『カトリック聖歌集』にまで残っています。

 典礼ともっとも密接に結びついた聖歌といっても過言ではない「ミサの賛歌」は、礼拝に寄り添い、時代ごとの礼拝を示すものです。新たな典礼文に慣れていくなかで、同時に、新しい「ミサの賛歌」にも親しみ、覚えてきたいところです。次回以降は、今回新しく作られた「ミサの賛歌」に、注目してそれぞれの賛歌を説明します。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

18 − seven =