ダンシングホームレス


ホームレスというと、どんなイメージを持っていますか。『ダンシングホームレス』というタイトルを見たとき、ホームレスが踊る? どこで? なんで? という疑問を抱いたまま、試写会場に足を運びました。

ホームレスというと、どうしても働かない人、地下通路や公園で寝ている人というイメージが払拭できないでいる人も多いかと思います。最近は、ビッグイシューを路上で販売している人を目にします。このビッグイシュー販売もホームレスの自立支援だということは、よく知られたことです。でも、どうしてもすでにできてしまった固定概念はなかなか脱出することができないものです。そんなイメージをお持ちの方にこそ、ぜひ見ていただきたいドキュメンタリーが『ダンシングホームレス』です。

新宿のバスターミナルで路上生活をする西篤近(40歳)は、ダンスで生計を立てたいと願うのですが、人間関係や借金に疲れ、ホームレス生活を始めたといいます。一度は、野垂れ死ぬことを考えたという西が、ビッグイシューの事務所で見つけた1枚のポスターによって「新人Hソリケッサ」というダンスパフォーマンス集団でした。

このダンス集団「新人Hソリケッサ」を主宰するアオキ裕キ(50歳)は、チャットモンキーの「シャングリラ」やL’Arec-en-Cielの「STAY AWAY」などのPVや数多くのCMを手がけてきた振付師です。そのアオキがニューヨークへダンス留学している最中に9.11のテロに遭遇したことで人生観が一変し、帰国後、「新人Hソリケッサ」を誕生させます。

この映画の中に出てくるホームレスの人たちは、社会からはみ出し、社会と融合できない部分を持っている人です。

「新人Hソリケッサ」の出演者の一部をご紹介しましょう。社会からも妻からも逃げた小磯松美(70歳)、メニエール病を患い、ドロップアウトした横内真人(56歳)、父の暴力から逃れた平川収一郎(49歳)。

彼らの言葉はどこまでも人間くさく、どことなくユーモラスです。そんなすべてを捨ててきた人たちから生まれる肉体表現をアオキは追求してゆこうとします。決してわかりやすい踊りではありません。アオキは、不器用にしか生きられない彼らの肉体表現をそのまま受け入れ、何も強制することなく、踊ることであふれ出る生命力を表現しようとしています。

そしてそれが社会への復帰につながる場面も出てきます。ぜひ、映画館に足を運んで観てください。排除の論理が広がりつつある現代社会において、踊りを通して、強烈なメッセージを発信し続ける彼らを目にすることができるはずです。

(中村恵里香/ライター)

3月7日(土)シアターイメージフォーラムほか全国順次公開
公式ホームページ:https://thedancinghomeless.com/

出演:アオキ裕キ、横内真人、伊藤春夫、小磯松美、平川収一郎、渡邉芳治、西篤近、山下幸治
監督・撮影:三浦渉/編集:前嶌健治/撮影:桜田仁/音楽:寺尾紗穂、石川征樹、平沢進、ダニエル・クオン/プロデューサー:佐々木伸之/エクゼクティブ プロデューサー:田嶋敦
製作・配給:東京ビデオセンター
2019/日本/DCP/99分


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