北の果ての小さな村で


北極に位置するグリーンランドという島をご存じでしょうか。世界でもっとも大きな島として知られています。面積は約217万 km²で、日本の約6倍。でも、人口はたった5万6000人。人口密度が低い島です。この島を舞台にしたドキュフィクションと言われる映画が間もなく公開されます。ドキュフィクションという名称はあまりご存じない方もいらっしゃると思います。かくいう私も今回初めて聴きました。端的にいうと、ドキュメンタリー風に撮ったフィクションということだそうです。日本ではドキュラマ(ドキュメンタリードラマの略)ともいわれています。

この映画、デンマークとグリーンランドの関係が大きな鍵を握っています。グリーンランドは、1721年から1953年までデンマークの植民地でした。1953年に憲法が改正され、植民地支配は終了していますが、デンマークの一地方都市としてさまざまな面で近代化が推し進められていました。1979年には、内政自治権を獲得し、自治権限の範囲を広げ、現在独立を目指しているそうです。

前置きが長くなりました。映画の話に移りましょう。グリーンランドの東部にある人口が80人のチニツキラーク村にデンマーク人の新人教師アンダース(アンダース・ヴィーデゴー)が赴任します。彼は、親が経営している農場を継ぐべきかどうか悩んだ末、何も決められないまましがらみのないグリーンランドへの赴任を希望しました。派遣される前にデンマークの教育長からは、グリーンランドの言葉を覚える必要はなく、デンマーク語で話をするように指示されています。しかし、赴任してみると、言葉のまったく異なる10名の生徒を前にうまく交流ができず、教室はさんざんなありさまです。

ある日の授業で、子どもたちに家族の絵を描かせてみると、子どもたちの大半が実の両親とではなく、祖父母と暮らしていることを知ります。デンマークではあり得ないことだというアンダースに対し、村人で、彼の世話をしてくれるジュリアスは、珍しいことではないといいます。

ささいなことでも風俗習慣の違いに戸惑っているときに、アサーという生徒が連絡もなく、1週間欠席します。心配になったアンダースは、アサーの家を訪問すると、祖父のガーティと犬ぞりで狩りの旅に出ていたといいます。アンダースの常識で考えると、犬ぞりで狩りに出ることは遊びです。しかし、極寒の地に住む彼らにとっては、犬ぞりで狩りに出ることは遊びではないのです。アサーの夢は祖父のような猟師になることです。そのために幼いうちから経験をすることが大切なのですが、アンダースはそれが理解できません。

そんなことが続き、学校での生活も、約束をしても現れない保護者たちの学校自体に興味のない様子に、アンダースはだんだん自信を失っていきます。その上、地域で催されたパーティに自分だけ呼ばれず、道で会っても無視されてしまうなど、“ヨーロッパのよそ者”への村人の態度は厳しく、だんだん孤立してしまいます。

そんなある時、猟師のトビアスから幼い頃に両親と行った狩猟の旅の話を聞いたアンダースは、幼い頃の体験を今でも大切に宝物のように話す姿を見て、徐々に気持ちが変わっていきます。

ここからは皆さん観てのお楽しみです。アンダースは地域にとけ込むことができるのか、子どもたちとの関係は、そして彼自身親の後を継ぐのかなどなど、見どころがあります。

私が皆さんにこの映画を観ていただきたいと感じた最大の要因は、心の交流にあります。同化政策の中で、頭から先住民を同化することが本当によいことなのか、そして言語の喪失とはどういうことなのか、いつも疑問に思っていることですが、この映画の中に答えがあるように感じます。その土地に住む人たちの風土、習慣、言語を大切に考え、否定するのではなく、肯定することからはじめると、民族の違いは乗り越えられるのではないかと考えているからです。ぜひ映画館で観てください。グリーンランドの厳しい寒さの中で見られるオーロラなどの美しい景色だけでも堪能できる映画です。

 

7月27日、シネスイッチ銀座、アップルリンク吉祥寺ほか、全国順次公開
公式ホームページ:http://www.zaziefilms.com/kitanomura/
監督・撮影・脚本:サミュエル・コラルデ/脚本:カトリーヌ・パイエ/音楽:エルワン・シャンドン/プロデューサー:グレゴワール・ドゥバイ 
出演:アンダース・ヴィーデゴー、アサー・ボアセン、チニツキラーク村の人々 2017年/フランス/グリーンランド語、デンマーク語/94分/原題:Une année polaire(英題:A POLAR YEAR)/字幕翻訳:伊勢田京子 
配給:ザジフィルムズ 
© 2018 Geko Films and France 3 Cinema


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