神さまの絵の具箱 16


末森英機(ミュージシャン)

わたしはつみびとの頭(かしら)である、とサウロは言う。ぼくはつみの頭(かんむり)と言おう。誇らしげに、しかも声高らかに、叫んでみよう。罪はわたしの冠である。痕跡はしたたり落ちる血である。数えきれない傷痕から、流れる汚れた血統(ちすじ)。何もかもを押し流す涙をものともせず、のたまものである。海峡を渡るのに、海ワシのつばさはいらない。蛍(ホタル)の灯(とも)も消えてはかない。海図をたたみ、針のない羅針盤。果敢な舵取りもクビにする。恩知らずのそのつみがすべてをになう。無我夢中(ねっしん)になって、なすべきことなどなにもない。選んだのではない、選ばれたのだから。
十字架を愛することを、急いで覚えなければならないきみやあなたとは訳が違うのだ。
この世の命の慰めに、少しも惹かれないつみは恩知らずの、このぼくなのだから。ここでも、あそこでも悲しみや苦しみを、蜜のように胸の箱に集めて「ただ、愛します」とこうべをたれようとするあなたがたとは、違うのだ。死を生きる。天国なんかいらない、庭師のいない荒れ果てた花園でいい。恩知らずのつみにあれば、メリバの石の水も、マナもノアの胸にかかる虹も見えなくていい。草むらに、深く隠れる若いヘビさえ、新しい管理人を楽園に招きたくてしかたがない。
いちばん不足している子を選んだ。マリアの息子のことか。恩知らずのその罪のために。
夢見る奴隷のように。なにも残らないほど愛する女乞食のように。このひみつこそ、きみやあなたをじっとさせておかない。「人間の肉と血はしばしばいたずらを働く」(ゼカリア3:1〜5)。もう少し待てば、きっとあの楽園の実もふたつに割られて、皿の上にならべられていたのかも。


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