『マンチェスター・バイ・ザ・シー』


人は誰でも、癒えない傷や忘れられない痛みを持っている――そんなことを考えさせられる映画に出会いました。それが『マンチェスター・バイ・ザ・シー』です。

この映画は、第89回(2017年)アカデミー賞で主演男優賞と脚本賞を受賞しました。マンチェスターといってもイギリスではなく、アメリカのマサチューセッツ州に「マンチェスター・バイ・ザ・シー」という町があり、本作はそこが舞台となっています。

© 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.

ボストン郊外で便利屋として働く主人公のリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)は、兄のジョー(カイル・チャンドラー)の死をきっかけに、昔住んでいたマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻り、甥のパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人として一緒に暮らしながら、自分の過去と向き合っていきます。

ここからわかるように、この物語では「過去」が重要なカギを握っているのですが、その「過去」の見せ方が実に秀逸です。というのも、回想シーンというのはどこかでまとまって描かれるというパターンが多いですが、この映画ではそうではありません。

運転しているとき、テレビを見ているとき、海を見たときなど、ふとした瞬間に過去の記憶を思い出しては消えていく、というように、回想のタイミングに非常にリアリティーがあります。その過去はどれも幸せそうで微笑ましく思える反面、こんなリーにこれからどんなことが起こるんだろう、という不安も湧き上がります。

© 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.

また、過去の出来事もすべて明かされるわけではありません。もちろん、最も重要な出来事は判明しますし、現在のシーンから、こんなことがあったんだろうなという推測もできます。過去を描かないということによって、実はその部分こそがリーにとって一番の「癒えない傷」や「忘れられない痛み」なのではないか、と感じました。

このほかにも、説明やセリフが少ないシーンがしばしばあり、その余白をどう埋めるか想像するのも一つの醍醐味です。皆さんも是非劇場でご覧になって、余白に想像を働かせてみてはいかがでしょうか。そしてそれは、まるで本当に実在しているかのようにリアリティーのある登場人物たちの「癒えない傷」や「忘れられない痛み」に寄りそうことなのかもしれません。

(高原夏希/AMOR編集部)

 

2017年5月13日(土)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

原題:Manchester by the Sea

監督・脚本:ケネス・ロナーガン/出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ、カーラ・ヘイワード

2016年/アメリカ/137分© 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.

ユニバーサル作品/配給:ビターズ・エンド、パルコ

公式サイト :http://www.manchesterbythesea.jp/


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