ロビン・ウィリアムズのクリスマスの奇跡

2014年に亡くなったロビン・ウィリアムズをご存じでしょうか。私の好きな俳優の一人です。彼はコメディ俳優として多くの人がとらえているようですが、コメディタッチでありながら、すごく深く考えさせられる映画に多く出演している俳優でもあります。彼の遺作とも言えるクリスマスにぜひ見てほしい映画『クリスマスの奇跡』をご紹介します。

事業に成功し、家族を大切にしているボイド(ジョエル・マクヘイル)は、弟の子供の洗礼のため、クリスマスに実家に呼び出され、疎遠になっている父(ロビン・ウィリアムズ)の家でクリスマス・イブを過ごすことになっていました。

サンタクロースを信じている息子のために、クリスマスプレゼントを用意していたにもかかわらず、ボイドは、子供のクリスマスプレゼントをシカゴの自宅に置き忘れてしまいます。何としても息子の夢を壊したくないので、急きょ、8時間かけて取りに帰ることになります。ところが車が故障し、仲の悪い父親と取りに行くハメになります。父親は口が悪くてボイドとは口論ばかりしていますが、外では息子自慢の親バカでした。ボイドの方は本気で父親を嫌っており、そのことに気づいた父親はショックを受けます。

頑固でうるさいおじいさんで、家族に優しい言葉一つかけられない父親ですが、息子に相手にされず寂しく落ち込んだり、息子ボイドを危機から守ろうとします。息子の家への往復は、同じ時間を共有し、徐々にお互いを理解していきます。

無事にクリスマスプレゼントを取りに戻れるのか、親子の関係は? これは見てのお楽しみです。

劇中、同じ警官に何回も違反キップを切られたり、仮設トイレに落っことしたり、笑えるシーンも多く楽しい映画です。子供たちの会話にもシニカルな笑いが潜んでいます。

エンドロールの終わりに出てくる『皆に笑顔を与えた男に捧ぐ』という言葉には、映画のストーリーとは別にロビン・ウィリアムズという名優の死を悼む言葉が隠され、最後まで一人の男の死を悼むものとなっています。

この映画は、クリスマスを舞台にした家族の再生の物語です。主の御降誕を家族とともに祝うことの大切さを教えてくれます。

中村恵里香(ライター)

 

監督:トリストラム・シャピーロ/脚本:フィル・ジョンストン

出演者:ロビン・ウィリアムズ、ローレン・グレアム、ピアース・ギャニオン、ウェンディ・マクレンドン=コーヴィ、ジョエル・マクヘイル、キャンディス・バーゲン、クラーク・デューク、オリヴァー・プラット、ライアン・リー、ジェフリー・タンバー、アマラ・ミラー、ティム・ハイデッカー、アミール・アリソン

原題:Merry Friggin’ Christmas/製作国:アメリカ/製作年:2014/ 上映時間:88分

 


『彼女が目覚めるその日まで』

抗NMDA受容体脳炎という病気をご存じでしょうか。日本でも年間1000人ほどの人がかかっている病気ということですが、ほとんど知られていない病気のようです。この病にかかった女性を描いた映画が期せずして日本とアメリカで作られ、日本の映画は『8年越しの花嫁』と題して現在公開中です。ともに実話を元に構成されています。残念ながら日本映画はまだ観ていないのですが、アメリカの映画の方は見ることができましたので、皆さんにご紹介したいと思います。

憧れのニューヨーク・ポスト紙で駆け出しの記者として働き始めた21歳のスーザン・キャラハン(クロエ・グレース・モレッツ)の毎日

© 2016 ON FIRE PRODUCTIONS INC.

は、希望と喜びに満ちていました。いつか1面の記事を書くと燃えていました。プライベートでも、プロミュージシャンを目指すスティーヴン(トーマス・マン)とつきあい始め、会うたびに想いを深めていっていました。

そんな中、離婚してしまっていながらも、娘を通して良好な関係を築いている父(リチャード・アーミティッジ)と母(キャリー=アン・モス)がバースデイ・パーティを開いてくれます。それぞれのパートナーと最愛のスティーヴンに囲まれてキャンドルを吹き消そうとしたとき、初めて体調の異変を感じます。皆の声が遠のき、めまいを覚えたのです。

デスクのリチャード(タイラー・ベリー)からスキャンダルを抱えた上院議員のインタビューを任されることになりますが、体調は日に日に悪化し、視界が揺れ、会話も聞き取れず、夜も眠れなくなります。そんな体調ですから、まともな文章が書けるわけがありません。締切を守れなくなるばかりでなく、綴りや文法までミスをしてしまいます。やがて手足がマヒするようになり、病院で診察を受けますが、検査結果はすべて異常なしでした。
そんな中、ついに取り返しの付かない大失態をスザンナは演じてしまいます。上院議員のインタビューの席上、スキャンダルに引っかけた下品なジョークで彼を侮辱してしまいます。リチャードから激しく叱責されますが、なぜそんな言葉出て来たのかスザンナにもわかりません。

その後、激しいけいれんの発作を起こすようになり、両親に付き添われて精密検査を受けますが、そこでも異常は見られないといわれます。劇的な幸福感に包まれたかと思うと、深い絶望感と被害妄想がわき起こり、周囲の人を罵詈罵倒するなど、両親ですら手に負えなくなってしまいます。

© 2016 ON FIRE PRODUCTIONS INC.

何度検査を受けても異常なしの状態で、とうとう精神病院への転院を薦められます。恋人スティーヴンは「絶対治るから、一緒に頑張ろう」と支え続けますが、手足が動かなくなり、全身が硬直し、口もきけなくなってしまいます。
スザンナがどのようにして抗NMDA受容体脳炎という診断に行き着いたのか、そしてその後病は克服できたのか、職場へは復帰できるのかなどは観てのお楽しみです。

私がこの映画をぜひ皆さんに見ていただきたいと思ったのは、訳のわからない病に突き当たったとき、本当に助けてくれる存在が身近にいるということです。心から自分を信頼し、救いの手をさしのべてくれる存在がどれほど心強いものかスザンナを通して感じることができました。「だれか助けて」と声を上げなくても、だれかが見ていてくれるそんな存在を感じられるこの映画は生きようとする私たちの応援歌のような気がします。

中村恵里香(ライター)

12/16(土)より角川シネマ有楽町他全国ロードショー
監督・脚本:ジェラルド・バレット/製作:AJ・ディクス、ベス・コノ、シャーリーズ・セロン、リンジー・マカダム、ロブ・メリリーズ
出演:クロエ・グレース・モレッツ、トーマス・マン、キャリー=アン・モス、リチャード・アーミティッジ、タイラー・ペリー、ジェニー・スレイト
原作:『’脳に棲む魔物』スザンナ・キャハラン著・澁谷正子訳(KADOKAWA刊)
2016年/カナダ・アイルランド/英語/カラー/5.1ch/スコープ/89分/G/字幕翻訳:松浦美奈
公式サイト:http://kanojo-mezame.jp


私は幸福(フェリシテ)

あなたにとって幸福って何でしょうか。ある人はお金というかも知れませんし、人間関係という人もいるかも知れません。いえ、もっと違うものという人もいるでしょう。その形はきっとそれぞれだと思います。

本当の幸福って何だろうと考えさせられる映画に出会いました。その映画を今回はご紹介したいと思います。

舞台は中央アフリカのコンゴ民主共和国です。幸福、祝福という意味の名を付けられたフェリシテ(ヴェロ・ツァンダ・ベヤ)はバーで

© ANDOLFI – GRANIT FILMS – CINEKAP – NEED PRODUCTIONS – KATUH STUDIO – SCHORTCUT FILMS / 2017

唄うことで生計を立てています。彼女の歌声は、エネルギーそのものといった感じです。ある朝、フェリシテの家の冷蔵庫が壊れます。近所の子供に修理屋を呼んで来させると、そこに来たのは、彼女が唄うバーでいつも酔っ払い、女を口説いているタブー(パピ・ムパカ)でした。冷蔵庫はファンがいかれているというのですが、2週間前にモーターを修理したばかりのフェリシテは、修理より新品を買うほうがいいと渋々ながらタブーにお金を渡し、冷蔵庫を頼みます。

そこに1本の電話がかかります。病院からの電話で、彼女の一人息子、サモ(ガエタン・クラウディア)が交通事故に遭ったというものでした。急いで病院に駆けつけますが、大部屋に寝かされている息子は、意識はあるが、呼びかけても何の反応も見せません。

息子サモは、左足を開放骨折しており、手術が必要な状態で、治療費が100万フランかかるといいます。何としてもお金を集めるので、手術をしてほしいと頼むフェリシテに前払いをしなければ手術は出来ないと医師は告げます。

これまで人に頭を下げることをせず、一人の力で生きてきたフェリシテにとって、それは大変なことでした。

バーではタブーが彼女のために客から金を集め、バンドメンバーもお金を出します。でもそれだけではとても足りないのです。

ここまでのお話ではそんなに魅力のある話には見えないかもしれません。ここから話は佳境に入るのですが、フェリシテの周囲の人間関係が如実に出る作品ですので、見ていただきたいと思います。

なぜ彼女はフェリシテという名前になったのかも大きく関係していきます。幸福とは縁遠いような彼女の生活も息子の事故により大きく変わっていきます。

© ANDOLFI – GRANIT FILMS – CINEKAP – NEED PRODUCTIONS – KATUH STUDIO – SCHORTCUT FILMS / 2017

息子は助かるのか、元旦那さんとの関係や、お金をどうやって集めるのか、タブーとの関係は?

人に頭を下げず、いつも一人でお金に執着していたフェリシテにとって、本当の幸福とは何なのでしょうか。彼女の心の変遷が大きく映画の世界に誘っていきます。

コンゴという私たちにとって、あまりなじみのない土地へ誘い、その国の現状がフェリシテとタブーによって身近に感じられるようになります。

まったく笑うことのないフェリシテの心の変遷をぜひご覧ください。本当の幸福とは何か、心に突き刺さるものがあるはずです。

蛇足になりますが、この映画にはアフリカの音楽が溢れています。その迫力にはなぜか心が揺さぶられます。

中村恵里香(ライター)

 

12月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

監督・脚本:アラン・ゴミス、撮影:セリーヌ・ボゾン、編集:ファブリス・ルオー、アラン・ゴミス、音響監督:ブノワ・ド・クレルク
出演:ヴェロ・ツァンダ・ベヤ、パピ・ムパカ、ガエタン・クラウディア、カサイ・オールスターズ他

原題:Félicité |製作年:2017年|製作国:フランス、セネガル、ベルギー、ドイツ、レバノン

129分| DCP |1.66|5.1ch |カラー:リンガラ語&チルバ語&フランス語

字幕:斎藤敦子 字幕監修:奥村恵子 配給:ムヴィオラ
公式HP:www.moviola.jp/felicite/

 


「プラハのモーツアルト——誘惑のマスカレード」

モーツアルトという作曲家はあまりに有名で、知らないという人はいないのではないかと思います。ところが、モーツアルトの書いたオペラ作品を映画化されたものは結構あるのですが、モーツアルトを主人公にした映画は存外に少ないのをご存じでしょうか。

今回、モーツアルト自身を主人公にした映画が日本で公開されるというので、すごく楽しみに試写会場に出向きました。

この映画、モーツアルトが「フィガロの結婚」を書き上げ、その後「ドンジョバンニ」を書き上げるまでの1年間を描いた作品です。

1787年、プラハでは、モーツアルトの新作『フィガロの結婚』の話題で持ちきりでした。上流階級の人々は、連日ノスティッツ劇場での上演に詰めかけ、歓喜し、その従僕やメイドまでその一説を口ずさむほどの熱狂振りでした。劇場のパトロン、名門のサロカ男爵(ジェームズ・ピュアフォイ)の邸宅で宴会が開かれ、その場でモーツアルトが話題に上ります。自然とモーツアルトを招待しようということになります。各自が寄付を行い、残りを男爵が持つということになります。

その頃、モーツアルト(アナイリン・バーナード)は失意のどん底にいます。息子ヨハンを病気で失い、妻はその傷を癒やすために温泉へ療養に出かけたため、ウイーンに一人残されていました。孤独に苦しむ彼にとって、プラハで活躍するオペラ歌手ヨゼファ・ドウシェク夫人(サマンサ・パークス)邸に逗留しないかという誘いは、何よりも嬉しいものでした。プラハに赴いたモーツアルトは、『フィガロの結婚』のリハーサルと、新作『ドンジョバンニ』の作曲に取りかかります。ところが、『フィガロの結婚』のケルビーの役の歌手が突然役を降り、ドイツに帰ってしまいます。サロカ男爵の推薦で代役に決まったのがスザンナ・ルプタック(モーフィーッド・クラーク)です。彼女の美貌と溢れるばかりの才能に魅了されるモーツアルトとスザンナ、スザンナをわが物にと狙うサロカ男爵、モーツアルトを亡き者にしたいザルツブルク大司教から派遣されたノフィの暗躍が物語を盛り上げます。

© TRIO IN PRAGUE 2016.

この2人の運命は、そして、『ドンジョバンニ』はどのような展開の物語になるのか人間関係が複雑に絡み合っていきます。

そしてこの物語の一つの魅力は、プラハの町並みです。百塔の都と称されるプラハの美しい街並みが存分に映画を盛り上げています。要所要所に配される『フィガロの結婚』の音楽も映画の魅力となっています。オペラファン、クラッシク好きな方はもちろん、オペラは……、クラッシックは……と思っている方もきっとこの映画を観ればその音楽に魅了されるのではないかと思います。ぜひ映画館で見て下さい。

中村恵里香(ライター)

 

監督・脚本:ジョン・スティーブンソン/脚本:ブライアン・アシュビー、ヘレン・クレア・クロマティ/制作:ヒュー・ペナルット・ジョーンズ、ハンナ・リーダー/美術:ルチャーナ・アリギ 衣装:パム・ダウン

出演:アナイリン・バーナード、モーフィッド・クラーク、ジェームズ・ピュアフォイ、サマンサ・バークス

2016年/UK・チェコ合作/103分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:Interlude in Prague/字幕翻訳:チオキ真理/

配給:熱帯美術館提供:熱帯美術館、ミッドシップ

公式ホームページ:Mozart-movie.jp

 


ジュリーと恋と靴工場

フランスといえば、サンジェルマン通りやエッフェル塔など、パリをすぐに思い浮かべる人も多いでしょう。かくいう私もその1人です。

今回ご紹介する映画はフランスの片田舎ロマンという土地で職もなく、金もなく、彼氏もいない25歳の女性が主人公の物語「ジュリーと恋と靴工場」です。

不況の中で、これといって特技もなく、恋人に振られ、銀行口座も心も空っぽで、唯一の望みが正社員になることというジュリー(ポーリーヌ・エチエンヌ)は靴屋の売り子をしていますが、試用期間中に契約を打ち切られてしまいます。求人雑誌片手に手当たり次第、面接にいっても正式採用されることはありませんでした。

そんなどん底の状態でようやく試験採用されたのは高級靴メーカーの工場の倉庫管理でした。近代化の波が押し寄せる工場は閉鎖が噂されていました。その波にあらがおうと必死に闘う靴職人たちにまきこまれ、危うくクビになりそうになりながら、ほのかな恋の予感を感じつつ、懸命に生きるジュリーの姿に心打たれるものがあります。

近代化をしようとするオーナーとそれによるリストラを懸念する女性たち攻防には、経営者としての方針に対抗する職人の意地とプライドをかけたたくましい女性たちが描かれています。

この映画の見どころは、ミュージカル調で描かれていることです。かなり前、ある有名人が「ミュージカルは何でこんなところで踊るの? セリフでなく、何で歌なのと感じて好きでない」といって話題になったことがありますが、コメディ仕立てにしたこの映画では、ダンスがすごく光っています。工場の中でストライキを催す女性たちの姿を描くとどうしても重くなりがちですが、ミュージカルにするからこそ、重くならずそれでいて少々滑稽とも思える場面構成ができるのだと、感心しました。それになんといっても、どこにでもいそうな女の子ポーリーヌ・エチエンヌがすごくコケティッシュです。

ジュリーは正式採用されるのか、ちょっと気になる男性との恋の行方は、リストラは本当にあるのか、工場の行方は。気になることが満載のこの映画をぜひ、映画館でご覧ください。

中村恵里香(ライター)

© 2016 LOIN DERRIÈRE L’OURAL – FRANCE 3 CINÉMA – RHÔNE-ALPES CINÉMA

脚本・監督:ポール・カロリ、コスティア・テスチュ

出演:ポーリーヌ・エチエンヌ、オリヴィエ・シャントロー、フランソワ・モレル 他

提供:ギャガ、ロングライド

配給:ロングライド

サウンド・トラック:ランブリング・レコーズ

9/23(土)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開

 

公式HP:julie-kutsu.com

 


50年後のボクたちは

映画の日本語タイトルに疑問をもったことがありませんか?

今回ご紹介しようと思った映画ははっきり言って、なぜこのタイトルなの? という疑問がいっぱいの映画です。といっても、内容はすごくすてきな友情物語だからご紹介したいと思った次第ですが……。

原題は“Tschick”。なぜこのタイトルが日本のタイトル「50年後のボクたちは」に変わったかは作品を観ていただければ一目瞭然です。この作品には原作があります。ドイツで220万部を超える大ベストセラーになった児童小説“Tschick”です。日本では『14歳、ぼくらの疾走』(小峰書店)となっています。

14歳というと、大人になりっきていないけれども、子供でもない微妙な年頃で、人生に悩みを持ったりする頃です。そんな14歳のマイク(トリスタン・ゲーベル)は、臆病者で、クラスのはみ出しものです。授業でアル中の母親のことを作文にして発表するや同級生からは「変人」扱いされます。

でも、14歳にありがちな、片思いをクラスメイトのタチアナにしています。3週間後にあるタチアナの誕生日に何か特別なプレゼントをと考え、創意工夫を始めます。

そんなある日、転校生がやって来ます。担任に「自己紹介を」といわれれば、「面倒くせぇ」といい、目つきも悪く、変な髪型で、二日酔いというとんでもない奴です。彼の名はチック(アナンド・バトビレグ・チョローンバータル)。ロシアのかなり遠いところから移住してきたようです。マイクの隣の席に座ることになりますが、目を合わせようとはしませんでした。

終業式の日、タチアナの誕生日は明日になっていますが、マイクとチックにはパーティの招待状が届きません。夜、酔い潰れた母を迎えに行くと断酒の専門病院に行くと言い出します。

こうして夏休みが始まります。母は病院へ出発し、父は20ユーロを置いて愛人と2週間の出張旅行に出かけていきます。

突然チックが青いおんぼろのディーゼル車に乗ってやって来ます。嫌がるマイクをよそに2人は招待されなかったタチアナの誕生日パーティに渡せなかったプレゼントを届けに行きます。チックに背中を押されてマイクはプレゼント渡します。中身を見て驚くタチアナをよそにすがすがしい顔で会場を後にします。

ここから2人の旅が始まります。無免許で、チックの祖父が住むというどこにあるかわからない“ワラキア”へ向かう2人。そこにはさまざまなすてきな出会いがあります。無謀とも思える旅ですが、そこには深い友情が芽生えてきます。

旅の詳細はぜひ映画館で見て下さい。そこには深い友情の芽生えとすてきな出会いが待っています。2人の少年の出会いと友情物語に自分も14歳であった時代を思い起こすことでしょう。

中村恵里香(ライター)

 

スタッフ

監督:ファティ・アキン/脚本:ファティ・アキン、ラース・フーブリン/原作:ヴォルフガング・ヘンドルフ他

キャスト:トリスタン・ゲーヘル、アナンド・バトビレグ・チョローンバータル、メルセデス・ミューラー他

2016年・ドイツ・原題:Tschichk/93分/配給:ビターズ・エンド

公式ホームページ:http://bitters.co.jp/50nengo

9月16日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

 


スキップ・トレース

ジャッキー・チェンといえば、香港映画を代表するスターですし、世界を股にかけるカンフー映画のスターというイメージの方が多いのではないでしょうか。私は、これまであまりジャッキー・チェンに興味もなく、かなりの数の映画に出演している彼の映画をあまり観ていませんでした。今回なぜか試写状を手にし、いってみようかなという気になりました。

香港のベテラン刑事ベニー・チャン(ジャッキー・チェン)は、相棒ユンを殺した疑いで9年間も香港の犯罪王ヴィクター・ウォンを追っています。その捜査の際、ヴィクター・ウォンにつながる人物たちを追跡中、付近の住宅に甚大な被害を与え停職処分になってしまいます。

一方、ベニーがユンから託され育ててきた娘サマンサ(ファン・ビンビン)は、マカオのカジノで働いていますが、そこでヴィクターの犯罪に巻き込まれてしまいます。サマンサを救うべく、ベニーは事件の鍵を握るアメリカ人詐欺師コナー・ワッツ(ジョニー・ノックスヴィル)を追って一路 ロシアへ向かいます。そこでロシアン・マフィアに拘束されていたコナーを無事救出し、連れ戻そうとしますが、なぜか2人とも追われる身になってしまいます。

©2015 TALENT INTERNATIONAL FILM CO., LTD. & DASYM ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

まじめなベテラン刑事とあちらこちらのマフィアから狙われている札付き詐欺師が一緒になってロシアから世界各国へと逃走劇が続きます。はたして香港へ帰り着けるのか。そして、サマンサは助かるのか、犯罪王ヴィクター・ウォンとはどんな人物なのかは観てのお楽しみです。

アクションあり、笑いあり、ハラハラドキドキありといったまさにジャッキー・チェンの映画らしい映画です。でも、ここでご紹介しようと思ったのは、そんな娯楽映画の部分ではありません。まじめなベテラン刑事のベニー・チャンと、行き当たりばったりで札付きの詐欺師コナー・ワッツは、一見水と油のようですが、家族と縁の薄い孤独という共通点があります。1人でいることを愛しているように装っている2人にも、切望する愛と家族への憧れがありました。この映画の裏に潜む孤独と愛への切望を、そして驚くようなエンディングを楽しみに観ていただければと思います。

原題・英題 :skiptrace

©2015 TALENT INTERNATIONAL FILM CO., LTD. & DASYM ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

監督:レニー・ハーリン
出演:ジャッキー・チェン、ジョニー・ノックスヴィル、ファン・ビンビン
提供:カルチュア・パブリッシャーズ KADOKAWA
配給:KADOKAWA  2016年/アメリカ・中国・香港合作/107分

公開日 :2017年9月1日より現在公開中

公式サイト :skiptrace-movie.jp


あしたは最高のはじまり

シングルファーザーや男手の子育て奮闘記を描いた作品というと、「I am Sam アイ・アム・サム」「クレイマー、クレイマー」「赤ちゃんにバンザイ!?」「赤ちゃんと僕」「チョコレートドーナツ」など、たくさんの映画があります。これは映画としておもしろい題材と思われているのかも知れませんが、これらの映画はどれも、ユーモアを交えながらも、父と子の愛情を描き、私たちの心を打つ映画として記憶に残っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

同じようなテーマでも、描き方でこんなに作品が変わるのかと思われる映画「あしたは最高のはじまり」をご紹介します。

PHOTO : Julien PANIÉ

南フランスのコートダジュールで観光クルージング船の船長をし、遊び放題遊び、毎日がバカンスとばかりにおもしろおかしく暮らしていたサミュエル(オマール・シー)の前にクリスティン(クレマンス・ポエジー)が突然姿を現します。サミュエルは彼女と、いつ関係を持ったのかもあやふやな状態です。そんな彼に、クリスティンは、生後数か月の赤ん坊グロリアが実の娘だと告げ、グロリアを手渡したまま行方をくらましてしまいます。

戸惑ったのは、サミュエルです。彼女と出会ったロンドンへ、グロリアを抱いて向かいます。ロンドンに着いたものの、行方はつかめない上に財布を落としてしまい、途方に暮れているところにテレビプロデューサーのベルニー(クレマンス・ポエジー)が現れます。ゲイである彼は、サミュエルに一目惚れ。部屋を分け与えるだけでなく、英語の話せない彼のためにスタントマンという仕事まで与えてくれます。

8年の歳月が流れ、グロリア(グロリア・コルストン)は、明るく元気な少女に成長します。

スタントマンとして成功をしたサミュエルの仕事場にグロリアはマネージャーとして付き添うまでに深い絆で結ばれていました。そしてベルニーはグロリアには叔父のような存在で、3人は誰よりも深い絆で結ばれた幸せな家族そのものでした。

PHOTO : Julien PANIÉ

しかし、グロリアが大きくなれば、当然のように母親の存在を気にします。娘を傷つけたくないばかりに母親の職業を偽り、母からのメールを偽造します。そんな母親をすごいと喜ぶグロリアですが、それでも会いたいと懇願します。

そんな時に本当の母親が出現します。

母の出現で話は一変します。ここからは観てのお楽しみです。サミュエルとグロリアの関係はどうなるのか。グロリアとクリスティンは。サミュエルとクリスティンは。あっと驚く結末も待っています。

この映画の見どころはたくさんあります。アットホームでありながら、2人の男性のユニークな子育て、ユーモラスな会話などなど、生きるとは、そして子育てとはどういうことなのか、そして最も大切な親子の愛情をまざまざと見せてくれる作品です。ぜひ映画館に足を運んで観てください。

中村恵里香(ライター)

原題:Demain Tout Commence

PHOTO : Julien PANIÉ

監督:ユーゴ・ジェラン

出演:オマール・シー クレマンス・ポエジー アントワーヌ・ベルトラン グロリア・コルストン

2016年/フランス/カラー/117分/字幕翻訳:星加久実

© 2016 – MARS FILMS – VENDÔME PRODUCTION – POISSON ROUGE PICTURES – TF1 FILMS PRODUCTION – KOROKORO

2017年9月9日(土)より角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、渋谷シネパレス他全国ロードショー

公式サイト :http://ashita-saikou.jp


静かなる情熱−−エミリ・ディキンスン

エミリ・ディキンスンという詩人をご存じでしょうか。現代では、最もキリスト教的詩人として高い評価を受けている作家でもありますが、私がエミリ・ディキンスンと出会ったのは、大学時代の一般教養で学んだ英語の授業でした。でも、その時は、きれいな詩だなという印象しかありませんでした。英語の原文の醸し出す美しい響きに感銘したということに過ぎなかったのです。エミリ・ディキンスンに魅了されたのはそれから5年ほどたった編集者時代でした。

© A Quiet Passion Ltd/Hurricane Films 2016. All Rights Reserved.

ある作家の方の所へ通っていた頃、「きみは詩は誰のものが好き」というひと言からでした。実は、詩があまり好きでなかった私は、「詩はどうも」という返事しかできませんでした。その先生から「日本人の詩は言葉遊びのような気がするからかね」と聞かれ、生意気盛りの私は「言葉遊びというよりも、言葉をいじくりすぎていて、感銘をうけずらい」と答えました。その時、その先生から渡された一篇の日本語の詩がありました。見たこともない言葉の羅列に、びっくりしたのです。それは、その先生が試訳されたエミリ・ディキンスンの詩でしたが、こんな訳ができるのかと目からうろこの落ちる思いでした。それからディキンスンの詩に夢中になりかけたこともありましたが、日本語に訳されたその詩は、先生が訳されたものとはほど遠く、ほどなく忘れてしまいました。

今回、ディキンスンの生涯が映画になると聞き、その頃の心浮き立つ思いが甦るように、試写会場に足を運びました。詩は知っていましたが、彼女の生涯にまで目を向けてはいなかったからです。

19世紀半ばのマサチューセッツ州のマウント・ホリヨーク女子専門学校に通っていたエミリ・ディキンスンは、校長から、信仰について問われると、「信仰についてまだ信じられない」と答えます。このままでは学校に残ることもできない状況のエミリを家族が迎えにやって来ます。

© A Quiet Passion Ltd/Hurricane Films 2016. All Rights Reserved.

家に帰り、弁護士である父から夜詩作にふけることを許されたエミリは、詩を作ることに没頭していきます。妹ラヴィニアから資産家で快活な性格のヴライリング・バッファムを紹介されます。ヴライリングはユーモアを交えつつ、本音で語る進歩的な女性です。ヴライリングに影響されたエミリは、牧師との祈りの時にも反抗的な態度を示すようになります。注意を与える父親に対し、「キリスト教でいることは安全。でも魂はわたしのもの」と言い放ちます。

時は南北戦争時代です。ディキンスン家にも戦争の足音が聞こえてきます。詳細は観てのお楽しみです。ヴライリングや、家族との関係。周囲の人との軋轢。彼女の孤独がどこから生まれ、それによる詩作が今の彼女の地位を作ったとも言える生涯が描かれています。

生前たった10作しか発表していなかったエミリは「後世の名声は、不遇だったものに与えられる」といっています。彼女の美しい詩作が作品の中にちりばめられ、終焉を迎えるまでのすさまじい情熱の根源が描かれた作品です。

(中村恵里香/ライター)

 

2017年7月29日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー
監督:テレンス・デイヴィス
出演:シンシア・ニクソン/ジェニファー・イーリー/キース・キャラダイン
2016年/イギリス・ベルギー/英語/カラー/125分/シネマスコープ/ドルビーデジタル/DCP
原題:A QUIET PASSION 字幕:佐藤恵子 字幕監修:武田雅子
提供:ニューセレクト/ミモザフィルムズ 配給:アルバトロス・フィルム/ミモザフィルムズ
宣伝:ミモザフィルムズ 宣伝協力:テレザ/高田理沙
後援:日本エミリィ・ディキンスン学会/ブリティッシュ・カウンシル
公式ホームページ:www.dickinson-film.jp


そしてサンタ・マリアがいた ―キリシタン復活物語―

明治期に入って、キリスト教信徒が長崎の大浦天主堂で発見された話は、皆さんご存じだと思いますが、この話が映画化されたり、舞台化された話を聞いたことがありませんでした。

そんなお話を長崎の司祭古巣馨氏が舞台化されたことが話題になったのは、信徒発見150年を迎えた2015年3月でした。この舞台は何度か再演されたようです。東京にいる私たちの耳にはなかなか入らない情報ですが、2016年4月に上演された舞台がDVDになりました。

キリスト教禁教から弾圧の歴史を舞台では、スライドを使って、詳しく説明しています。そして、浦上三番崩れでの迫害から帳方と聞役という宣教師のいない状況で重要な位置を占めていた二人が牢死し、水方という洗礼を授ける役目のものだけが生き延び、信仰を守る要として皆をまとめている浦上を舞台に物語は始まります。250年ただひたすら信仰を守り、生きてきた人々の知恵と工夫があってこそなのでしょうが、この舞台では、その中でも人間としての不安なども克明に描かれています。

そして、1865年大浦天主堂が建立されると、浦上では本当にパードレがいるのか、会いに行こうとする人とびとと、それに反対する人たちで村が割れます。杉本ユリを初めとする15人の信徒がプティジャン神父の元を訪れ、サンタ・マリア像との出会いのシーンで舞台は終わりますが、ナレーションとスライドを使ってその後の浦上四番崩れのことも描かれています。

舞台の最後、脚本と監督を務めた古巣馨司祭は「150年前に起きた希望と復活の話を祈りながらなぞったら、この話が生まれました。願う人、祈る人の思いが一つになった時に大切なことがはっきり見えて、次の時代に渡していくことができると教わりました。今日、先人たちの思いが少しでも届いたら本当に幸せです」と宣べています。

舞台の映像化ではなく、本物の舞台が見たいと思わせる作品です。長崎での上演ということもあり、舞台を見られない私たちにとって、この作品を見ることで、150年前に生きた人々の苦難と感動を分かち合える素晴らしい作品です。

(中村恵里香/ライター)