ジュリーと恋と靴工場

フランスといえば、サンジェルマン通りやエッフェル塔など、パリをすぐに思い浮かべる人も多いでしょう。かくいう私もその1人です。

今回ご紹介する映画はフランスの片田舎ロマンという土地で職もなく、金もなく、彼氏もいない25歳の女性が主人公の物語「ジュリーと恋と靴工場」です。

不況の中で、これといって特技もなく、恋人に振られ、銀行口座も心も空っぽで、唯一の望みが正社員になることというジュリー(ポーリーヌ・エチエンヌ)は靴屋の売り子をしていますが、試用期間中に契約を打ち切られてしまいます。求人雑誌片手に手当たり次第、面接にいっても正式採用されることはありませんでした。

そんなどん底の状態でようやく試験採用されたのは高級靴メーカーの工場の倉庫管理でした。近代化の波が押し寄せる工場は閉鎖が噂されていました。その波にあらがおうと必死に闘う靴職人たちにまきこまれ、危うくクビになりそうになりながら、ほのかな恋の予感を感じつつ、懸命に生きるジュリーの姿に心打たれるものがあります。

近代化をしようとするオーナーとそれによるリストラを懸念する女性たち攻防には、経営者としての方針に対抗する職人の意地とプライドをかけたたくましい女性たちが描かれています。

この映画の見どころは、ミュージカル調で描かれていることです。かなり前、ある有名人が「ミュージカルは何でこんなところで踊るの? セリフでなく、何で歌なのと感じて好きでない」といって話題になったことがありますが、コメディ仕立てにしたこの映画では、ダンスがすごく光っています。工場の中でストライキを催す女性たちの姿を描くとどうしても重くなりがちですが、ミュージカルにするからこそ、重くならずそれでいて少々滑稽とも思える場面構成ができるのだと、感心しました。それになんといっても、どこにでもいそうな女の子ポーリーヌ・エチエンヌがすごくコケティッシュです。

ジュリーは正式採用されるのか、ちょっと気になる男性との恋の行方は、リストラは本当にあるのか、工場の行方は。気になることが満載のこの映画をぜひ、映画館でご覧ください。

中村恵里香(ライター)

© 2016 LOIN DERRIÈRE L’OURAL – FRANCE 3 CINÉMA – RHÔNE-ALPES CINÉMA

脚本・監督:ポール・カロリ、コスティア・テスチュ

出演:ポーリーヌ・エチエンヌ、オリヴィエ・シャントロー、フランソワ・モレル 他

提供:ギャガ、ロングライド

配給:ロングライド

サウンド・トラック:ランブリング・レコーズ

9/23(土)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開

 

公式HP:julie-kutsu.com

 


50年後のボクたちは

映画の日本語タイトルに疑問をもったことがありませんか?

今回ご紹介しようと思った映画ははっきり言って、なぜこのタイトルなの? という疑問がいっぱいの映画です。といっても、内容はすごくすてきな友情物語だからご紹介したいと思った次第ですが……。

原題は“Tschick”。なぜこのタイトルが日本のタイトル「50年後のボクたちは」に変わったかは作品を観ていただければ一目瞭然です。この作品には原作があります。ドイツで220万部を超える大ベストセラーになった児童小説“Tschick”です。日本では『14歳、ぼくらの疾走』(小峰書店)となっています。

14歳というと、大人になりっきていないけれども、子供でもない微妙な年頃で、人生に悩みを持ったりする頃です。そんな14歳のマイク(トリスタン・ゲーベル)は、臆病者で、クラスのはみ出しものです。授業でアル中の母親のことを作文にして発表するや同級生からは「変人」扱いされます。

でも、14歳にありがちな、片思いをクラスメイトのタチアナにしています。3週間後にあるタチアナの誕生日に何か特別なプレゼントをと考え、創意工夫を始めます。

そんなある日、転校生がやって来ます。担任に「自己紹介を」といわれれば、「面倒くせぇ」といい、目つきも悪く、変な髪型で、二日酔いというとんでもない奴です。彼の名はチック(アナンド・バトビレグ・チョローンバータル)。ロシアのかなり遠いところから移住してきたようです。マイクの隣の席に座ることになりますが、目を合わせようとはしませんでした。

終業式の日、タチアナの誕生日は明日になっていますが、マイクとチックにはパーティの招待状が届きません。夜、酔い潰れた母を迎えに行くと断酒の専門病院に行くと言い出します。

こうして夏休みが始まります。母は病院へ出発し、父は20ユーロを置いて愛人と2週間の出張旅行に出かけていきます。

突然チックが青いおんぼろのディーゼル車に乗ってやって来ます。嫌がるマイクをよそに2人は招待されなかったタチアナの誕生日パーティに渡せなかったプレゼントを届けに行きます。チックに背中を押されてマイクはプレゼント渡します。中身を見て驚くタチアナをよそにすがすがしい顔で会場を後にします。

ここから2人の旅が始まります。無免許で、チックの祖父が住むというどこにあるかわからない“ワラキア”へ向かう2人。そこにはさまざまなすてきな出会いがあります。無謀とも思える旅ですが、そこには深い友情が芽生えてきます。

旅の詳細はぜひ映画館で見て下さい。そこには深い友情の芽生えとすてきな出会いが待っています。2人の少年の出会いと友情物語に自分も14歳であった時代を思い起こすことでしょう。

中村恵里香(ライター)

 

スタッフ

監督:ファティ・アキン/脚本:ファティ・アキン、ラース・フーブリン/原作:ヴォルフガング・ヘンドルフ他

キャスト:トリスタン・ゲーヘル、アナンド・バトビレグ・チョローンバータル、メルセデス・ミューラー他

2016年・ドイツ・原題:Tschichk/93分/配給:ビターズ・エンド

公式ホームページ:http://bitters.co.jp/50nengo

9月16日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

 


スキップ・トレース

ジャッキー・チェンといえば、香港映画を代表するスターですし、世界を股にかけるカンフー映画のスターというイメージの方が多いのではないでしょうか。私は、これまであまりジャッキー・チェンに興味もなく、かなりの数の映画に出演している彼の映画をあまり観ていませんでした。今回なぜか試写状を手にし、いってみようかなという気になりました。

香港のベテラン刑事ベニー・チャン(ジャッキー・チェン)は、相棒ユンを殺した疑いで9年間も香港の犯罪王ヴィクター・ウォンを追っています。その捜査の際、ヴィクター・ウォンにつながる人物たちを追跡中、付近の住宅に甚大な被害を与え停職処分になってしまいます。

一方、ベニーがユンから託され育ててきた娘サマンサ(ファン・ビンビン)は、マカオのカジノで働いていますが、そこでヴィクターの犯罪に巻き込まれてしまいます。サマンサを救うべく、ベニーは事件の鍵を握るアメリカ人詐欺師コナー・ワッツ(ジョニー・ノックスヴィル)を追って一路 ロシアへ向かいます。そこでロシアン・マフィアに拘束されていたコナーを無事救出し、連れ戻そうとしますが、なぜか2人とも追われる身になってしまいます。

©2015 TALENT INTERNATIONAL FILM CO., LTD. & DASYM ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

まじめなベテラン刑事とあちらこちらのマフィアから狙われている札付き詐欺師が一緒になってロシアから世界各国へと逃走劇が続きます。はたして香港へ帰り着けるのか。そして、サマンサは助かるのか、犯罪王ヴィクター・ウォンとはどんな人物なのかは観てのお楽しみです。

アクションあり、笑いあり、ハラハラドキドキありといったまさにジャッキー・チェンの映画らしい映画です。でも、ここでご紹介しようと思ったのは、そんな娯楽映画の部分ではありません。まじめなベテラン刑事のベニー・チャンと、行き当たりばったりで札付きの詐欺師コナー・ワッツは、一見水と油のようですが、家族と縁の薄い孤独という共通点があります。1人でいることを愛しているように装っている2人にも、切望する愛と家族への憧れがありました。この映画の裏に潜む孤独と愛への切望を、そして驚くようなエンディングを楽しみに観ていただければと思います。

原題・英題 :skiptrace

©2015 TALENT INTERNATIONAL FILM CO., LTD. & DASYM ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

監督:レニー・ハーリン
出演:ジャッキー・チェン、ジョニー・ノックスヴィル、ファン・ビンビン
提供:カルチュア・パブリッシャーズ KADOKAWA
配給:KADOKAWA  2016年/アメリカ・中国・香港合作/107分

公開日 :2017年9月1日より現在公開中

公式サイト :skiptrace-movie.jp


あしたは最高のはじまり

シングルファーザーや男手の子育て奮闘記を描いた作品というと、「I am Sam アイ・アム・サム」「クレイマー、クレイマー」「赤ちゃんにバンザイ!?」「赤ちゃんと僕」「チョコレートドーナツ」など、たくさんの映画があります。これは映画としておもしろい題材と思われているのかも知れませんが、これらの映画はどれも、ユーモアを交えながらも、父と子の愛情を描き、私たちの心を打つ映画として記憶に残っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

同じようなテーマでも、描き方でこんなに作品が変わるのかと思われる映画「あしたは最高のはじまり」をご紹介します。

PHOTO : Julien PANIÉ

南フランスのコートダジュールで観光クルージング船の船長をし、遊び放題遊び、毎日がバカンスとばかりにおもしろおかしく暮らしていたサミュエル(オマール・シー)の前にクリスティン(クレマンス・ポエジー)が突然姿を現します。サミュエルは彼女と、いつ関係を持ったのかもあやふやな状態です。そんな彼に、クリスティンは、生後数か月の赤ん坊グロリアが実の娘だと告げ、グロリアを手渡したまま行方をくらましてしまいます。

戸惑ったのは、サミュエルです。彼女と出会ったロンドンへ、グロリアを抱いて向かいます。ロンドンに着いたものの、行方はつかめない上に財布を落としてしまい、途方に暮れているところにテレビプロデューサーのベルニー(クレマンス・ポエジー)が現れます。ゲイである彼は、サミュエルに一目惚れ。部屋を分け与えるだけでなく、英語の話せない彼のためにスタントマンという仕事まで与えてくれます。

8年の歳月が流れ、グロリア(グロリア・コルストン)は、明るく元気な少女に成長します。

スタントマンとして成功をしたサミュエルの仕事場にグロリアはマネージャーとして付き添うまでに深い絆で結ばれていました。そしてベルニーはグロリアには叔父のような存在で、3人は誰よりも深い絆で結ばれた幸せな家族そのものでした。

PHOTO : Julien PANIÉ

しかし、グロリアが大きくなれば、当然のように母親の存在を気にします。娘を傷つけたくないばかりに母親の職業を偽り、母からのメールを偽造します。そんな母親をすごいと喜ぶグロリアですが、それでも会いたいと懇願します。

そんな時に本当の母親が出現します。

母の出現で話は一変します。ここからは観てのお楽しみです。サミュエルとグロリアの関係はどうなるのか。グロリアとクリスティンは。サミュエルとクリスティンは。あっと驚く結末も待っています。

この映画の見どころはたくさんあります。アットホームでありながら、2人の男性のユニークな子育て、ユーモラスな会話などなど、生きるとは、そして子育てとはどういうことなのか、そして最も大切な親子の愛情をまざまざと見せてくれる作品です。ぜひ映画館に足を運んで観てください。

中村恵里香(ライター)

原題:Demain Tout Commence

PHOTO : Julien PANIÉ

監督:ユーゴ・ジェラン

出演:オマール・シー クレマンス・ポエジー アントワーヌ・ベルトラン グロリア・コルストン

2016年/フランス/カラー/117分/字幕翻訳:星加久実

© 2016 – MARS FILMS – VENDÔME PRODUCTION – POISSON ROUGE PICTURES – TF1 FILMS PRODUCTION – KOROKORO

2017年9月9日(土)より角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、渋谷シネパレス他全国ロードショー

公式サイト :http://ashita-saikou.jp


静かなる情熱−−エミリ・ディキンスン

エミリ・ディキンスンという詩人をご存じでしょうか。現代では、最もキリスト教的詩人として高い評価を受けている作家でもありますが、私がエミリ・ディキンスンと出会ったのは、大学時代の一般教養で学んだ英語の授業でした。でも、その時は、きれいな詩だなという印象しかありませんでした。英語の原文の醸し出す美しい響きに感銘したということに過ぎなかったのです。エミリ・ディキンスンに魅了されたのはそれから5年ほどたった編集者時代でした。

© A Quiet Passion Ltd/Hurricane Films 2016. All Rights Reserved.

ある作家の方の所へ通っていた頃、「きみは詩は誰のものが好き」というひと言からでした。実は、詩があまり好きでなかった私は、「詩はどうも」という返事しかできませんでした。その先生から「日本人の詩は言葉遊びのような気がするからかね」と聞かれ、生意気盛りの私は「言葉遊びというよりも、言葉をいじくりすぎていて、感銘をうけずらい」と答えました。その時、その先生から渡された一篇の日本語の詩がありました。見たこともない言葉の羅列に、びっくりしたのです。それは、その先生が試訳されたエミリ・ディキンスンの詩でしたが、こんな訳ができるのかと目からうろこの落ちる思いでした。それからディキンスンの詩に夢中になりかけたこともありましたが、日本語に訳されたその詩は、先生が訳されたものとはほど遠く、ほどなく忘れてしまいました。

今回、ディキンスンの生涯が映画になると聞き、その頃の心浮き立つ思いが甦るように、試写会場に足を運びました。詩は知っていましたが、彼女の生涯にまで目を向けてはいなかったからです。

19世紀半ばのマサチューセッツ州のマウント・ホリヨーク女子専門学校に通っていたエミリ・ディキンスンは、校長から、信仰について問われると、「信仰についてまだ信じられない」と答えます。このままでは学校に残ることもできない状況のエミリを家族が迎えにやって来ます。

© A Quiet Passion Ltd/Hurricane Films 2016. All Rights Reserved.

家に帰り、弁護士である父から夜詩作にふけることを許されたエミリは、詩を作ることに没頭していきます。妹ラヴィニアから資産家で快活な性格のヴライリング・バッファムを紹介されます。ヴライリングはユーモアを交えつつ、本音で語る進歩的な女性です。ヴライリングに影響されたエミリは、牧師との祈りの時にも反抗的な態度を示すようになります。注意を与える父親に対し、「キリスト教でいることは安全。でも魂はわたしのもの」と言い放ちます。

時は南北戦争時代です。ディキンスン家にも戦争の足音が聞こえてきます。詳細は観てのお楽しみです。ヴライリングや、家族との関係。周囲の人との軋轢。彼女の孤独がどこから生まれ、それによる詩作が今の彼女の地位を作ったとも言える生涯が描かれています。

生前たった10作しか発表していなかったエミリは「後世の名声は、不遇だったものに与えられる」といっています。彼女の美しい詩作が作品の中にちりばめられ、終焉を迎えるまでのすさまじい情熱の根源が描かれた作品です。

(中村恵里香/ライター)

 

2017年7月29日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー
監督:テレンス・デイヴィス
出演:シンシア・ニクソン/ジェニファー・イーリー/キース・キャラダイン
2016年/イギリス・ベルギー/英語/カラー/125分/シネマスコープ/ドルビーデジタル/DCP
原題:A QUIET PASSION 字幕:佐藤恵子 字幕監修:武田雅子
提供:ニューセレクト/ミモザフィルムズ 配給:アルバトロス・フィルム/ミモザフィルムズ
宣伝:ミモザフィルムズ 宣伝協力:テレザ/高田理沙
後援:日本エミリィ・ディキンスン学会/ブリティッシュ・カウンシル
公式ホームページ:www.dickinson-film.jp


そしてサンタ・マリアがいた ―キリシタン復活物語―

明治期に入って、キリスト教信徒が長崎の大浦天主堂で発見された話は、皆さんご存じだと思いますが、この話が映画化されたり、舞台化された話を聞いたことがありませんでした。

そんなお話を長崎の司祭古巣馨氏が舞台化されたことが話題になったのは、信徒発見150年を迎えた2015年3月でした。この舞台は何度か再演されたようです。東京にいる私たちの耳にはなかなか入らない情報ですが、2016年4月に上演された舞台がDVDになりました。

キリスト教禁教から弾圧の歴史を舞台では、スライドを使って、詳しく説明しています。そして、浦上三番崩れでの迫害から帳方と聞役という宣教師のいない状況で重要な位置を占めていた二人が牢死し、水方という洗礼を授ける役目のものだけが生き延び、信仰を守る要として皆をまとめている浦上を舞台に物語は始まります。250年ただひたすら信仰を守り、生きてきた人々の知恵と工夫があってこそなのでしょうが、この舞台では、その中でも人間としての不安なども克明に描かれています。

そして、1865年大浦天主堂が建立されると、浦上では本当にパードレがいるのか、会いに行こうとする人とびとと、それに反対する人たちで村が割れます。杉本ユリを初めとする15人の信徒がプティジャン神父の元を訪れ、サンタ・マリア像との出会いのシーンで舞台は終わりますが、ナレーションとスライドを使ってその後の浦上四番崩れのことも描かれています。

舞台の最後、脚本と監督を務めた古巣馨司祭は「150年前に起きた希望と復活の話を祈りながらなぞったら、この話が生まれました。願う人、祈る人の思いが一つになった時に大切なことがはっきり見えて、次の時代に渡していくことができると教わりました。今日、先人たちの思いが少しでも届いたら本当に幸せです」と宣べています。

舞台の映像化ではなく、本物の舞台が見たいと思わせる作品です。長崎での上演ということもあり、舞台を見られない私たちにとって、この作品を見ることで、150年前に生きた人々の苦難と感動を分かち合える素晴らしい作品です。

(中村恵里香/ライター)

 


「パトリオット・デイ」

今世界の各地でテロといわれる殺戮が行われています。そんな不穏な状況の中、2013年4月15日に起きたボストンマラソンのテロ事件を扱った映画が公開されることになりました。

この事件、ニュースから流された衝撃的な映像が今もこころに焼き付いています。しかし、テロがあったことと、犯人がつかまったことだけが日本ではニュース等で流されました。その裏にどんなことがあったのか、私たちが日本にいるからなのか、それともアメリカでも同じ扱いなのか、知る術がありませんでした。

4月15日というのは、アメリカでは「愛国者の日」という祝日で、英語でパトリオット・デイというのだということも、無知な私はこの映画で知りました。この記念日を祝して、アメリカで最も古い町ボストンではマラソン大会が開かれるようです。

© 2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

第117回ボストンマラソンのスタートの日、ボストン警察殺人科の警部トミー・サンダース(マーク・ウォールバーグ)は警備係としてボストンマラソンのフィニッシュ地点にかり出され、警備をしているところで、爆発事件に遭遇します。この映画、ストーリーをお話しするよりも、さまざまな人間関係をさらっと流しながら、核心を突いた演出がされていますので、まずは映画を観て下さいとお伝えしておきます。

そこで、印象的な台詞のシーンをご紹介し、この映画の誘いにできればと思います。

犯人の一人、兄のタメルラン・ツァルナエの妻が警察に拘束され、尋問を受けるシーンで「私たちイスラム教の信者の妻たちには2つの道しかない。“戦いと服従”」といいます。そして、その戦いと服従は夫に対してと神に対してだというのです。イスラム教という宗教には女性は髪を隠さなければならず、聖堂には入れない宗教といった漠然としたイメージがありますが、ここまでいわなければならないほど、女性に厳しいのかと驚きを感じました。

一方、主人公トミー・サンダースは、犯人の一人を追い詰めていく中で、同僚に自身の経験を吐露した後、「悪魔と戦う武器はひとつしかない。それは愛だ」といいます。愛を伝え合うのに一番有効なのは、抱きしめることだともいうのです。

これは宗教観の違いかもしれませんが、後者のほうにどうしてもこころが惹かれます。

© 2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

テロと戦うその他大勢になりがちな警察官とFBI職員たちの犯人を追い詰めていく姿にもこころ震えるものがあります。すべてを一から映像化するのではなく、ドキュメンタリータッチで実際の映像を交えながら作られる手法のとりこになること請け合いです。

監督はこのコーナーで4月にご紹介した「バーニングオーシャン」を手がけたピーター・バーグです。実際の事件を見ているような迫力があります。

それともう一つ、映画のストーリーが終わった後に実際に事件に遭った人たちや事件に関わった人たちの証言がありますが、これにも迫力があります。実在の事件を扱った映画の難しさを越えた愛のものがたりがここにはありました。

 

 

© 2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ、ケヴィン・ベーコン、ジョン・グッドマン、J・K・シモンズ、
ミシェル・モナハン

原題:PATRIOTS DAY /2016年/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1ch/2時間13分
日本語字幕:松崎広幸
配給:キノフィルムズ
公式サイト:www.patriotsday.jp

 


聖母マリアを演じた女優

イエスの生涯を描いた映画はたくさん作られています。ところが、聖母マリアを主人公にした映画がどのくらいあるのか調べてみると、2006年に公開された『マリア』とケビン・コスナーが監督した『ジーザス』いう映画しか見つからないということがわかり、ちょっと驚きを感じました。

『マリア』という映画ですが、実際には見ていないので、なんとも言えませんが、受胎告知から出産、その後エジプトへという道のりを描いたもののようです。そこでマリアを演じたのは、ケイシャ・キャッスル=ヒューズ。この人は『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』に出演しているので、ご存じの方も多いでしょう。

ケビン・コスナーが監督した『ジーザス』は原題が “MARY, MOTHER OF JESUS” ですので、まさしくマリアの視線でイエスの生涯を描いたもののようです。

さて、イエスの生涯を描いた映画に必ず出てくると思っていた聖母マリアですが、調べたかぎりでイエスの生涯を描いた映画が約20作品。そのうちマリア様が登場する映画は12作品でした。意外に少ないようにも思いました。

では、聖母マリアを演じた女優陣はというと、これが公開当時すごく有名な女優というのは案外少なく、後に有名になった女優さんも存外に少ないこと気がつきました。

最後に映画名、原題、監督名、公開年、マリアを演じた女優名の表を記しておきますので、ぜひ参考になさってみてください。

1979年に公開された『ジーザス』は、日本では公開されていませんが、無料でインターネットからダウンロードして見られます。この映画は、ジョン・ヘイマン監督が制作した作品で、新約聖書の「ルカによる福音書」を忠実に映像化することでイエス・キリストの生涯を描いた異色作として評価されています。出演者やエキストラは、ユダヤ人やアラブ人を多く起用したことでも注目されています。70以上の言語に翻訳されており、58億人の人が見たということです。ちょっと教育映画的な要素がありますが、じっくり聖書を読んだことのない人にはお勧めかもしれません。

(中村恵里香/ライター)

マリアを演じた女優(表)

邦題 (原題) 公開年 監督名 マリアを演じた女優
ベン・ハー
(Ben-Hur: A Tale of the Christ)
1925年 フレッド・ニブロ ベティ・ブロンソン
キング・オブ・キングス
(King of Kings)
1927年 セシル・B・デミル ドロシー・カミングス
ゴルゴダの丘
(Golgotha)
1935年 ジュリアン・デュヴィヴィエ ジュリエット・ヴェルヌイーユ
キング・オブ・キングス
(King of Kings)
1961年 ニコラス・レイ シオバン・マッケンナ
奇跡の丘
(Il vangelo secondo Matteo)
1964年 ピエル・パオロ・パゾリーニ マルゲリータ・カルーソ
偉大な生涯の物語
(The Greatest Story Ever Told)
1965年 ジョージ・スティーヴンス ドロシー・マクガイア
ナザレのイエス
(Jesus of Nazareth)
1977年 フランコ・ゼフィレッリ オリヴィア・ハッセー
ジーザス
(Jesus)
1979年 ピーター・サイクス、ジョン・クリシュ エリー・コーエン
最後の誘惑
(The Last Temptation of Christ)
1988年 マーティン・スコセッシ ベルナ・ブルーム
ジーザス
(MARY, MOTHER OF JESUS)
1999年 ケビン・コスナー ジャクリーン・ビセット
パッション
(The Passion of the Christ )
2004年 メル・ギブソン マヤ・モルゲンステルン
マリア
(The Nativity Story)
2006年 キャサリン・ハードウィック ケイシャ・キャッスル=ヒューズ
サン・オブ・ゴッド
(Son of God)
2014年 クリストファー・スペンサー ローマ・ダウニー


この世界の片隅に

日本カトリック映画賞という賞があるのをご存じでしょうか。日本カトリック映画賞は、1976年以来、毎年1回、前々年の12月から前年の11月までに公開された日本映画のなかで、カトリックの精神に合致する普遍的なテーマを描いた優秀な映画作品の監督に贈られるものです。今年も受賞作が発表されました。「この世界の片隅に」です。

かなり話題になっている作品でもありますし、すでにご覧になった方も大勢いらっしゃるでしょう。アニメーション映画だからと敬遠されている方もいらっしゃるかもしれません。そんな理由で敬遠されている方々にぜひ見ていただきたい映画として紹介させていただきたいと思います。

昭和8年から終戦後すぐまで、広島県広島市江波に住む本当にどこにでもいそうなちょっとドジで、絵の大好きな少女が軍港の町・広島県呉市に嫁ぎ、第二次世界大戦中にどのように生き、何を感じたかということを、こうの史代の原作を元に忠実に再現したアニメーション映画です。

この映画は、決して声高に反戦を歌っている映画ではありません。本当にほんわかした雰囲気の中、いのちとは何か。戦争とは何かを問いかけています。

主人公すずの夫周作が4年生の頃、世界で軍縮が決まり、海軍で働く人たちは職を失います。その当時のことを思いだし、「大事じゃと思っとったあの頃は、大事じゃと思っていたが、大事じゃと思っていた頃が懐かしい」と母の言う言葉。

絵を描くことの好きな主人公すずは、丘の上の畑で、呉港に停泊している軍艦の様子を何気なくスケッチしていると憲兵に見つかり、諜報活動をしているとつるし上げを食います。普段のすずを知らない人は、軍港の絵を描いているだけで、大まじめに諜報活動だと決めつける世の中が戦争です。戦争というものがいかに人びとを傷つけ、尊いいのちが失われるかを描いています。

毎日、何回も空襲に襲われる呉の町ですが、6月呉工廠造兵部が空襲に襲われ、姪の晴美を失い、自身も右手を失っても、けなげに生きようとします。それに追い打ちをかけるように広島に原爆が落ちます。父や母、妹を心配するすずですが、右腕をなくしたすずは広島まで行くことはできませんでした。

そして8月15日、終戦を迎えます。終戦の詔勅はすずに大きな衝撃を与えます。

「あっけのう人はおらんようになる。おらんようになると言葉が届かんようになる。飛び去っていく。うちらのこれまでが。それでいいと思ってきたものが。がまんしようと思ってきたことが。(中略)ぼうっとしたうちのままで死にたかった」

これがすずの終戦を迎えた際の本音です。

今も世界のどこかで戦争が行われています。それは国と国だったり、民族同士の戦いだったりしています。本当に戦争は必要なのか。なぜ人と人が戦わなければいけないのか。

軍港の町呉を舞台にした庶民の生活から今を考えてみてはいかがでしょうか。

日本カトリック映画賞の授賞式が5月20日土曜日12時30分からなかのZERO大ホールで行われます。上映後、受賞式とトークが行われますので、ぜひ足を運んでみてください。

チケットは聖イグナチオ教会案内所、スペースセントポール、サンパウロ書店、高円寺教会天使の森、ドン・ボスコ社で扱っています。

そこまで足を運べないという方は、SIGNIS JAPAN公式ホームページhttp://signis-japan.orgよりお問い合わせください。

 

監督・脚本:片渕須直/原作: こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊)/音楽:コトリンゴ/企画:丸山正雄/監督補・画面構成:浦谷千恵/キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典/美術監督:林孝輔/プロデューサー:真木太郎/製作統括:GENCO/アニメーション制作:MAPPA/配給:東京テアトル/製作:「この世界の片隅に」製作委員会/©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

公式ホームページ:Konosekai.jp

出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外(特別出演)


バーニングオーシャン

2010年4月20日、アメリカのルイジアナ州にほど近いメキシコ湾沖の石油掘削施設ディープウォーター・ホランゾンで未曾有の大事故が起こったことを覚えていらっしゃるでしょうか。日本でも大きなニュースになり、油にまみれたペリカンの映像が今も目に焼き付いています。

最先端テクノロジーが搭載された石油プラットフォームといわれたディープウォーター・ホライゾンの内部で何が起こったのか。突然の爆発に襲われた126人の作業員はどのように行動したのか。その安全性は本当に大丈夫だったのか。ニューヨーク・タイムズの記者が生存者一人一人に克明にインタビューした記事に基づいた映画が公開されます。タイトルは「バーニングオーシャン」です。

トランスオーシャン社のエンジニア、マイク・ウィリアムズ(マーク・ウォールバーグ)は、愛する妻フェリシア(ケイト・ハドソン)、幼い娘と別れ、メキシコ湾沖の石油掘削施設ディープウォーター・ホランゾンで電気技師として、3週間の務めを果たすため、妻の運転でヘリポートを目指します。

そこには、施設主任ジミー・ハレル(カート・ラッセル)、アンドレア・フレイタス(ジーナ・ロドリゲス)の姿もありました。

126人が働く、ディープウォーター・ホランゾンは、最新テクノロジーを備えた巨大施設ですが、問題が山積の施設でもありました。電気系統の故障が相次ぎ、次から次へと修理が必要になってきます。

石油掘削を依頼しているBP社は、工期の遅れを問題とし、管理職のヴィドリン(ジョン・マル

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コヴィッチ)は掘削作業終了前に必要なテストをせずに担当者を帰してしまいます。安全よりも工期を重視した結果、掘削泥水の除去作業が開始されます。作業員は「これでもうすぐ家に帰れる」と活気づきます。その夜、海底のメタンガスが猛烈な勢いでライザーパイプに吹きあげた影響で、大量の原油が会場に漏れ出す事故が起こります。

事故の様子はぜひ映画館でご覧ください。実際のディープウォーター・ホランゾンを再現し、その壊れゆく姿は釘付けになること請け合いです。その時、人びとは何をし、どう動いたかも克明に描かれています。脱出劇もその克明さに胸打たれます。

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そばで海底から泥の積み込みを待っていた船に救助された人びとは、船上から崩れゆくディープウォーター・ホランゾンを見守ります。作業員一人一人の名を呼び、その犠牲者の持ち場が集中していることに動揺した作業員たちは、「主の祈り」を唱えます。ここに、祈りの重要さが訴えかけられます。

この映画は、安全とは何か。家族とは何かを訴えかけると共に、祈りによる救いが描かれているように思いました。

ハリウッド映画の超大作というと、スケールの大きさだけが話題になりますが、その裏にある訴えかけに目を向けることも大事だと教えられる映画でした。

中村恵里香(ライター)

スタッフ
監督:ピーター・バーグ/脚本:マシュー・マイケル・カーナハン、マシュー・サンド/製作ロレントィ・ディ・ボナヴェンチュラ、マーク・ヴァーラディアン、スティーブン・レヴィンソン、デヴィッド・ウォマーク

キャスト
マーク・ウォールバーグ、カート・ラッセル、ジョン・マルコヴィッチ、ジーナ・ロドリゲス、ディラン・オブライエン、ケイト・ハドソン

原題:Deepwater Horizon、配給:角川映画

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2017年4月21日、全国ロードショー

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