由宇子の天秤


ネット社会の中で、誰もがさまざまなことを発信できる社会になりました。しかし、何気なく言った一言が大きく人を傷つけることがあるのではないかと常々考えていました。それが単純な一言でも、どこかで誰かが傷つくことを考えなくてはならないと思っています。

また、私はドキュメンタリーが好きで、映画だけでなく、テレビのドキュメンタリー番組をよく見ます。ドキュメンタリーは真実を描くものだと思われがちですが、実はその考え事態が間違っているのではないかと思っていました。それは作り手の意図するところが必ずしも真実とは限らないからです。

そんなことを改めて考えさせられる映画『由宇子の天秤』をご紹介します。

3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクター木下由宇子(瀧内公子)は、女子高生の父親・長谷部(木村知貴)へのインタビューをしています。そして、真実を追い求めるために加害者であるとされる教師・矢野の母親・登志子(丘みつ子)へのインタビューをすすめていきます。

一方で、夜になると、父・政志(光石研)が営む小さな学習塾の講師を手伝っています。

テレビ局の方針と対立を繰り返しながら、真実を追究しようと進めていきます。事件の真相に迫りつつある時、父親が思いもよらぬことをしでかしたことを知ります。大切なものを守りたい自分と自分が思っている“正義”との狭間で由宇子は揺れ動きます。この場で詳細を語ることはストーリー全体をばらしてしまうことになるので、避けます。ぜひ映画館に足を運んでみてください。

真実を追究しようとしているドキュメンタリーディレクターの由宇子のインタビューを続ける姿勢は、真実を追い求め、どちらにも偏らないりんとした姿に見えます。それがたとえ自分が身を置くマスコミの横暴に対しても、です。自分が正しいと信じたものを追究し、それを世間に問いかけようとします。彼女の正義は、事実を正しく伝えることです。しかし、インタビューを続けていくうちに、それぞれ生きることの難しさを抱えていることを知ります。そんな中での父親の起こした問題によって、由宇子は揺れ動いていきます。真実は何か。そして正義とは何かを真正面からとらえている作品のように思います。

監督の春本雄二郎氏は、この映画を作ることになったきっかけについて、

「2104年に、あるいじめ自殺事件から派生した特異な事件について報じた記事を目にしたことがきっかけです。加害少年の父親と同姓同名の、事件とは無関係な人が、当事者ではない一般人に実名や住所を晒され、ネットリンチを受けるという記事でした。

私は『事件の当事者ではない一般人が、一体何を“真実”として、自らを絶対的な“正しいポジション”において、“正義を振りかざすのか?”という点に強い興味を抱くと共に、ある種の危うさと幼さを感じました。

果たして今目の前にある情報は真実なのか? 常に絶対正しい人間など存在するのか?」といっています。

誰でも発信者になり得る時代に真実とは何か、たった一つの情報が人を殺す凶器にもなり得るということを考えなければならないと深く考えさせられる作品です。

(中村恵里香/ライター)

 

9月17日(金)渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー

公式ホームページ:https://bitters.co.jp/tenbin/

 

キャスト:瀧内公美、河合優実、梅田誠弘、松浦祐也、和田光沙、池田良、木村知貴、川瀬陽太、丘みつ子、光石研

スタッフ:監督・脚本・編集:春本雄二郎/プロデューサー:春本雄二郎、松島哲也、片渕須直

配給:ビターズ・エンド/製作:映画「由宇子の天秤」製作委員会

2020/日本/カラー/5.1ch/1:2.35/DCP/153分

©️2020 映画工房春組 合同会社

 


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