一筋の光。―Un Rayo de Luz―


李春成(スポーツライター)

首都圏の緊急事態解除により一息ついたのも束の間、コロナ禍第2波の不気味な足音が聞こえてくる。ポケットティッシュの無料配布が消えた繁華街では、デパートやヘアカット専門店など、店舗前の行列があちらこちらで目立つようになったが、世の中の動きはまだ慎重さを隠さない。

国家の一大事において、まず最初に切り棄てられるのは、日常生活には不要不急の類に属するエンターテインメントの世界だ。とくに演劇や落語、ライブステージなど、“箱もの”と呼ばれる空間は「密封」「密集」「密接」──いわゆる「3密」の温床である。スポーツでは現役力士から死者を出した相撲をはじめ、卓球のTリーグやバスケットボールのBリーグなどが影響を受け、プロレス興行や柔道の五輪代表決定戦が立ち行かなくなった。

飛沫感染必至の屋外プロスポーツも同様である。深刻な事態に陥った北海道に続き、関東や関西の都市部が医療崩壊寸前にまで追い込まれたことで、野球やサッカーの人気チームが活動を自粛、プロスポーツ興行が相次いで機能停止となった。

プロ野球は6月19日、またNPB(日本野球機構)とともに対策を進めてきたJリーグも6月下旬から無観客による再開が発表された。だが、予断は許されない状況だろう。移動バスからロッカールーム、ベンチサイドにいたるまで、回避できない3密空間は複数箇所ある。万がいち選手やコーチ陣から感染者が出れば、クラスター化は免れまい。

しかし運営者を悩ませるのは、経営と防衛のバランスだ。

帝国データバンクは観光業と外食産業を筆頭に、年内の倒産数は1万件を超えると予想している。今後増えそうなのが日本が誇る製造業で、受注残が途切れる6月以降に倒産ラッシュが訪れるともいう。町に失業者が溢れるのは火を見るよりも明らかで、野村総研のエコノミストは、コロナ関連の失業者数を265万人とはじき出した。196万人と言われた08年のリーマンショック時を、はるかにしのぐ数字である。

地域密着型経営を推し進めるJリーグでは、早くもサガン鳥栖の経営危機が囁かれる。2期連続の赤字決算で、昨季の純損益は20億を超えた。18年に元スペイン代表のフェルナンド・トーレスを獲得するなど攻撃型の経営で話題となったが、そのトーレスが翌年に引退すると、大型スポンサーのサイゲームスが撤退、一気に資金難に陥った。死に体となったクラブに鞭打ったのが、コロナ蔓延によるリーグ戦の中止だ。本来であれば、今ごろは第17節を迎えているはずのJリーグだが、開幕戦を終えた直後に中断となったままだ。リーグ平均では下回るものの、昨季の鳥栖の平均入場者数は1万5,000人だ。単純計算でおよそ25万人分の入場料収入を失ったことになり、その総額は7億円を下らない。

クラブ存続のためにはリーグ戦やカップ戦の開催、集客イベントの仕掛けが命綱だが、勇気ある挑戦は新たな感染者を生み出しかねない。まさに前門の虎、後門の狼だろう。カタカナ好きの都知事が宣言した「ウィズ・コロナ」の道を選ばざるをえないのだ。

この鳥栖の例をポスト・コロナの新秩序だとすれば、鳥栖は育成型クラブへの転換が濃厚だ。すなわちチーム成績向上への意欲をなかばあきらめ、ユース世代以下の自前選手の強化・育成に力を注ぐ。こうして育て上げた優秀な選手を、他クラブへ売却するという経営方法である。

前身の東洋工業時代から、育成型クラブとしての実績を誇るのがサンフレッチェ広島だ。地元・吉田町の教育機関と提携し、全寮制システムをもつ。

駒野友一(現・FC今治)、槙野智章(現・浦和レッズ)、柏木陽介(同)、高萩洋次郎(現・FC東京)、森重真人(同)、森脇良太(現・京都サンガ)らは、いずれも広島のジュニアユース(U-15=15歳以下)やユース(U-18)で育成され、のちに日本代表にまで駆け上がった面々だ。たとえば神戸出身の柏木は、県立吉田高校を卒業後に広島のトップチームに昇格、22歳を迎えたばかりの09年末に浦和へ移籍した。浦和から広島へ支払われた譲渡額は、推定4千800万円だったという。しかしここで強調したいのは、これだけ多くの有力選手を売却したにもかかわらず、広島は03年のJ2転落から1年でJ1に復帰、12年シーズンからリーグ2連覇を達成し、優勝回数は5度にものぼるという実績だ。リーグ王者と天皇杯王者の一騎打ちとなるスーパーカップでも4度にわたって制し、浦和のような国内ビッグクラブと比較しても、まったく遜色ない成績を残してきた。

逆に今後の広島は、新たなステップに向けてのアップデートに踏み出す可能性もある。

3年前の17年、インターネットスポーツ配信サービスのDAZN(ダ・ゾーン)が、10年間で2,100億という巨額の契約金でJリーグ放映権を獲得した。それまで10年間の放映権を独占してきたスカパー!が年間50億といわれただけに、我が目を疑うような驚愕の提示額である。おそらくは、文科省が管轄するサッカーくじ「toto」のネット化を睨んでの投資と思われるが、だとすれば、契約が切れる27年以降も更新されるにちがいない。人びとの射幸心を煽る賭博のオンライン化は、指先1本で参加できるたやすさがある。中毒性に抗えないギャンブラーはDAZNにとっての上客であり、また固定客でもあるからだ。

いずれにしろ、これで一気に裕福になったJリーグは、各クラブへの配分金を大幅に増額した。それまで3億だったシーズン優勝チームの賞金額を、3年分割の15億5,000万、つまり5倍以上に引き上げたのだ。2位と3位のクラブにも、それぞれ7億と3億5,000万の賞金が分配される。

さらにリーグ上位チームと天皇杯優勝チームには、アジアのナンバーワンクラブを決めるACL(AFC Champions League)への出場権が与えられるため、この大会の成績によってはプラスアルファの報奨金を手にすることができる。ちなみに昨シーズンのACL優勝チームの賞金は400万ドル(約4億5,000万円)で、そのほか移動費として48万ドル、勝利給60万ドル、参加費50万ドルなどが付与され、ACL覇者は円換算でおよそ6億の収入増だ。

加えてアジア王者となったチームは、クラブワールドカップ(FIFA Club World Cup)への出場権も獲得できる。04年にその役目を終えたトヨタカップが発展的解消されて誕生したのが、6大陸王者とホスト国王者の7チームによって争われるこの大会だ。16年から3連覇という偉業を達成したのが、クリスティアーノ・ロナウド(現・ユヴェントス)やルカ・モドリッチを擁したレアル・マドリードだった。いうまでもなく、前者は5度にわたってバロンドール(FIFA最優秀選手)に輝いたポルトガル代表キャプテン、後者はクラブワールドカップの決勝で先制ゴールをあげ、クロアチア人初のバロンドールに選出された世界有数のパサーだ。そして前回のカタール大会では、延長のすえに南米王者を倒したリヴァプールが優勝賞金500万ドルを手にしている。だが最も大きな報酬は賞金ではなく、後世にも語り継がれる名誉なのである。

DAZNの巨額投資は、Jリーグの環境をすっかり変えてしまった。リーグ上位チームは、以前とは比較にならぬ賞金を補強資金に充て、カップ戦、天皇杯、ACLを含めたハードワークをこなせる体力を身につけることが可能になった。その結果、世界100カ国以上で中継されるクラブワールドカップで知名度を高めれば、選手の海外移籍やグッズ収入などで計り知れない恩恵を受ける。

育成型クラブの雄だったサンフレッチェ広島にも、従来の枠から脱皮するタイミングが到来しているのかもしれない。またその一方では、サガン鳥栖のように、それまでの攻撃的経営からの方針転換に迫られるクラブもある。チャンスをいかにしてつかむか、そして、ピンチをいかにしてチャンスに変えてゆくのか。ポストコロナに生まれるであろう新秩序と同様、我われに求められているのは発想の転換である。

 


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