過酷な経験を語る女性と元兵士たち


8月になると、第2次世界大戦に関する映画が多く上映されます。それは日本だけではないようですが、日本の場合、フィクションの場合は、どうしても戦艦ものや軍隊に関する映画が多いようです。ノンフィクションでは、戦場に行っていた兵士の方々が、今自分がいわなければという思いが強くなっているのか、戦場での体験を証言するものが多くなってきているように感じるのは私だけでしょうか。

そんな中、中国の過酷な戦場で拉致され、慰安婦にされた女性たちの証言を中心にした映画『太陽がほしい 劇場版』が公開されます。

1992年、東京で開催された「日本の戦後補償に関する国際公聴会」で中国人女性・万愛花さんの証言によって中国人「慰安婦」が明らかになりました。当時中国からの留学生として日本で学んでいた班忠義監督はその証言に衝撃を受け、万愛花さんの元を訪ねることからこの映画は始まります。

中国の山西省付近をていねいに歩き、元慰安婦の女性たちの証言を聞き取っていきます。そして、証言を聞き取るだけではなく、中国政府からも何も援助が受けられない彼女たちへ救いの手をのべていきます。

その中で衝撃的な言葉が次々と出てきます。まず、初めに訪れた万愛花さんは最初に「私は慰安婦ではない」といいます。彼女は15歳で中国共産党の幹部になっています。共産党幹部の名簿がほしい日本軍は彼女を拉致し、拷問を加え、名簿を出すようにいいますが、それを断り、2度に渡り逃亡します。そして3回目に拉致されたときには拷問後に慰安婦として扱われるようになります。朝から多くの人に陵辱され、夜は隊長のところへつれられて陵辱。そして朝また宿舎に戻って……という生活が1か月繰り返され、彼女は身体を壊し、路傍に捨てられます。こんな過酷な証言が次々に飛び出してきます。

そして、もう一方日本軍の元兵士たちへもマイクを向け、証言を聞き取っています。中国戦線から沖縄戦に移動し、そこで多くの戦友をなくした元兵士は、それは今まで語ってきたけれども、自分たちが中国で何をしてきたのかも語らねばならないといい、事実を語っていきます。その話を聞いていると戦場の過酷さだけでなく、人間の醜さが浮き彫りにされていきます。

日本の中では慰安婦はいなかった、彼女たちは娼婦だったなどの声を聞くこともありますが、本当にそうでしょうか。ここに紹介した万愛花さんだけでなく、彼女たちの声に耳を傾けてください。そこには戦場の過酷さが浮き彫りにされていきます。

映画の最後の方に、もう寝たきりになってしまった万愛花さんをキリスト教の団体が訪れて、日本人として謝罪するシーンがあります。そこで万愛花さんは「こんな寝たきりになっても生きていてごめんなさい。こんな若い人に謝らせてはいけないね。本当はあなたたちではなく、罪を犯した人が来るべきですね。罪を認めて今後の戒めとしてもらいたい。中国人民にはっきり謝罪して欲しい。これはぜいたくな望みでしょう」と語ります。

中国には見捨てられ、日本からも無視され、戦後75年を生きてきた彼女たちの生きた証をぜひ劇場で観てください。そこには、過酷な運命の中、けなげに生きてきた女性たちの姿があります。

中村恵里香(ライター)

8月3日(土)より、UPLINK渋谷(東京)、シネ・ヌーヴォ(大阪)、シネマスコーレ(愛知)にて公開。
ほか、神奈川、京都、兵庫、広島など全国順次

公式サイト:https://human-hands.com/

イベントスケジュール
<会場:UPLINK 渋谷|東京>
8月3日(土)林博史さん(現代史研究者/関東学院大学教授)、班忠義監督
8月4日(日)有馬理恵さん(舞台女優/本作ナレーション担当)
8月7日(水)纐纈あやさん(映画監督)、班忠義監督
8月10日(土)中野晃一さん(政治学者/上智大学教授)、班忠義監督
8月11日(日)班忠義監督
8月12日(月・祝)中原道子さん(「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクション・センター共同代表)、班忠義監督
8月14日(水)班忠義監督

<会場:シネ・ヌーヴォ|大阪、シネマスコーレ|愛知>
8月4日(日)班忠義監督

監督・撮影:班忠義/ナレーション:有馬理恵/編集:秦岳志/整音:小川武/音楽:WAYKIS

出演:万愛花、尹林香、尹玉林、高銀娥、劉面換、郭喜翠、鈴木義雄、金子安次、近藤一、松本栄好、山本泉など
製作:彩虹プロダクション/後援:ドキュメンタリー映画舎「人間の手」、中国人元「慰安婦」を支援する会/宣伝デザイン:直井恵/配給・宣伝:「太陽がほしい」を広める会
2018 年/中国・日本/108 分/BD/ドキュメンタリー
©2018 Ban Zhongyi


過酷な経験を語る女性と元兵士たち” への1件のフィードバック

  1. 当時者ではないので
    いくら思いを巡らせても
    その想いは、辛さはわからないのだろうと
    思います。
    勝った側負けた側どちらも辛い。
    巻き添えになった人は尚辛い。
    私たちにできることは
    二度と二度と
    悲惨な戦争の地獄を
    起こさないこと。

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