アート&バイブル 13:聖母子


ピーテル・パウル・ルーベンス『聖母子』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

今回、紹介する絵は、ルーベンス(Peter Paul Rubens, 生没年 1577~1640)の作品です。前回紹介したボッティチェリの「書物の聖母」と同じようなモチーフですが、ルーベンスが描くとボッティチェリの作品とは異なり、あくまでも明るい、そして温かみのある聖母子の絆となります。

ルーベンス(主に活躍したフランドルの言葉[オランダ語]ではリュベンス。ルーベンスはドイツ語読み)が生まれたのはドイツのジーゲンでした。両親はプロテスタントでしたが、カトリックに転会し、やがてルーベンスはカトリックとプロテスタントの両世界に認められる画家となります。また外交官としても働いた人物です。

彼の絵は生命力のある色使いが特徴で、幼子の肌の色は生き生きとしています。また彼は合作も多い画家で、人物をルーベンスが描き、その周りの風景や植物を他の画家が描くなど、現在では思いもよらない形の作品も多いのです。これも彼が社交性に富み、人から好かれる人柄であるがゆえに可能だったことなのです。

 

【鑑賞のポイント】

(1)体温が伝わってくるような幼子の体
幼子は全くの裸で、母の乳房に顔を寄せています。やわらかな幼子の体と母の乳房のやわらかさと温かさが感じられるほどです。幼子は一番、安心できるものに包まれて幸せそうにほほえんでいます。

ピーテル・パウル・ルーベンス『聖母子』(1624年、ベルリン美術館所蔵)

(2)聖書の頁をめくる聖母の手
母の胸に顔をうずめていた幼子が、母の手が何かをしていることにふと気がつきます。聖母の手はパラパラと音が聞こえるような様子で、聖書の頁をめくっています。「聖書のいろいろな箇所にあなたの事が書いてあるのよ」というような姿にも見えます。その聖書の各頁は美しく装飾されています。すなわち、今、この聖母子が立っている周りの風景と同じく、聖書の各頁の周辺には花や植物の絵が描かれているのです。聖母子のいる世界と聖書の世界がつながっているのです。聖書を開く時に、この世界にも花が開く(平和で豊かな世界が実現する)のです。

(3)聖母の表情に浮かぶほほえみ
ボッティチェリの聖母がどこか拭いきれない憂いを含んでいるのに対して、ルーベンスの描く聖母の表情には暗さがありません。ルーベンスが生きた時代も決して平穏ではなく、キリスト教世界もカトリックとプロテスタントが激しく争っていました。にもかかわらず、その両者を知るルーベンスは「同じ聖書を基礎としている信仰ですから必ずや和解し、一致することが出来るのです」と言わんばかりのメッセージを込めているように思います。

(4)聖書と同じ机の上におかれた果実
絵の右隅にはブドウやザクロ、リンゴのような果物が描かれています。マスカットのような緑色のブドウもあれば、巨峰のような濃い紫色のブドウもあります。色は異なっても同じブドウ、つまりカトリックもプロテスタントも同じことという意味が読み取れるのではないでしょうか。

 

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