修道士は沈黙する


井手口満(聖パウロ会)

『修道士は沈黙する』の原題『Le confession』は、カトリックの秘跡の一つ「告解」(現在カトリック教会の中では「ゆるしの秘跡」と呼ばれている)、という意味です。司祭は、カトリック信者から「告解」を聴いた場合、その内容については守秘義務を求められます。この守秘義務が邦題に「沈黙」という単語が用いられたのではないでしょうか。

物語は沈黙と祈りの生活をする厳格な修道会の司祭ロベルト・サルス(トニ・セルヴィッロ)がドイツのハイリゲンダム空港に降り立つところから始まります。彼は、空港の売店で一台の「ボイスレコーダ」を購入し早速「天国の天使が自らの務めを怠るとき、主は天使を永遠の暗い部屋に閉じ込める」(ユダの手紙1・6)の聖書の一節を録音します。見過ごしてしまいそうなこの場面ですが、この場面は物語全体のキーワードとなってきます。

サルスは、空港に迎えの車に乗り、バルト海に面したリゾート地の高級ホテルで開かれる予定のG8の財務相会議の会場に向かいます。そこには、各国の財務大臣が出席する中、一見場違いだと思われる、ロックスターと絵本作家、そして彼がゲストとして招かれます。この主催者で天才的なエコノミストとして知られる国際通貨基金(IMF)のダニエル・ロシェ(ダニエル・オートゥイユ)専務理事は、会議の前夜の夕食を彼の誕生会を催します。夕食後彼は、サルスを自室に招き「『告解』をしてください」と頼むのです。そして、翌朝自室でビニール袋をかぶったロシェが死んでいるのが発見されたのでした。警察が入り捜査が始まり、彼の死が自殺か他殺かという中、容疑者としてサルスが疑われるのですが。

ロシェの謎の死を通して、物語は政治家たちのエゴ、絵本作家の思い、警察の捜査など様々立場が浮かび上がってきます。そして、その鍵を握るサルスは、沈黙に徹していくのですが、彼に対して真相を探りに近寄る人々に与えるヒントは、実にユーモアに飛んでいます。冒頭で読まれた聖書の一節は、それぞれの役割を持つ人が本来の仕事をすること、もし本来の役割ではない、権力やエゴに向かうときその仕事が罪に変わってしまうことを暗示しているようです。サルスは、司祭として沈黙を守る中それぞれの人の中にある闇、癒しを必要とする人を慰め、また、政治的な闇に対してメスを入れていきます。この作品は、「告解」という「秘跡の神聖さ」とそれに対抗する「政治的な人間的なエゴ」のバトルを描くミステリーとなっているようです。

最後に大事な役者であるロルフ(政治家、軍人)という犬の動きもこの物語の見どころです。大切な決議の場面で普段おとなしいロルフが、会議室に集まる人々だけではなく飼い主までも威嚇し始めますが、サルスに対しては従順になついて行きます。ロルフは、彼らから醸し出されるものを敏感に察したのかもしれません。

この映画を通して何が大切なことか、何を守るべきかということを私たちに示唆している、そんな感じをうけました。

 

2018年3月17日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

監督・原案・脚本:ロベルト・アンドー
出演:トニ・セルヴィッロ、ダニエル・オートゥイユ、コニー・ニールセン、モーリッツ・ブライプトロイ、マリ=ジョゼ・クローズ
製作年:2016年/イタリア=フランス/イタリア語・仏語・英語/カラー/108分/
原題:Le confessioni /字幕:寺尾次郎
配給:ミモザフィルムズ/後援:イタリア大使館、在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
特別協力:イタリア文化会館/協力:ユニフランス

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