スペイン巡礼の道——エル・カミーノを歩く 37


古谷章・古谷雅子

5月29日(月) テラリージョス・デ・ロス・テンプラリオス~エル・ブルゴ・ラ・ネーロ(2)

歩行距離:31.7km
行動時間:8時間40分

3km先でレアル・カミーノ・フランセス(本来のフランス人の道)とカルサダ・ロマーノ(ローマ時代の石畳道)が分かれる。30km先で合流するが、後者には途中に宿泊施設が少ないので心惹かれるものの今日の行程では無理だ。サアグンの15km先のエル・ブルゴ・ラ・ネーロを宿泊地にしたかったので大方の巡礼に倣ってこちらをとった。ヒナゲシと麦畑と牧草地の中をほぼ直進する雰囲気のよい道で、若いプラタナスの並木が見事にエル・ブルゴ・ラ・ネーロまでの14kmの南側に植えられている。

但しプラタナスの葉が全部ヘンだ。若葉の時の大きさのまま秋のように薄茶色に枯れて丸まっている。地面に落ちている昨年の葉は赤ん坊の顔ぐらい大きいのに。これは日本でも問題になっている北米から広がりつつある害虫プラタナスグンバイにやられているのではないか。枯れた葉の間に緑色の新葉がところどころに再生はしている。せっかく巡礼路に植えられたこの並木が勢いを盛り返すことを祈る。なおこの若い並木はエル・ブルゴ・ラ・ネーロの先も街中や新幹線の敷設で途切れた部分を除いて、さらに続いてエル・カミーノを行く人を導き守っている。

またところどころにベンチとテーブルを備えたちょっとしたスペースがあるが、並木と同様、自治体の施策らしい。しかしトイレも作ってほしいものだ。維持管理や犯罪対策等の問題があるのだろうが。いくつかのベンチには2015年の総選挙の名残のスローガンや政党名が書かれたままになっていた。昼頃、道の左側に「梨の木の聖母礼拝堂 Ermita de Vergen de perales」。広い草地にノバラ、ヒナギク、ブタナ(ブタクサではない。黄色い可憐な花)などが咲き乱れ、その奥に煉瓦造り瓦葺の平屋の古い建物があるが、ここも入り口は封じられていた。閉じられていても教会や礼拝堂の敷地内の雰囲気はどこも清澄で敬虔な気持ちを喚起させる。サアグンで買ってきたリンゴやビスケットを食べながらしばし休憩。

次のベルシアノス・デル・レアル・カミーノはただ通過し先を目指した。まもなく道の右側に湿原や沼沢が見られるようになった。これまでには見られなかった種類の鳥もいた。立ち止まって湿原を見ていた先行者が興奮気味に大きな鳥を指さして「見えるかい? コウノトリ(stork)だよ」と教えてくれた。コウノトリは使われなくなった教会の鐘楼等に大きな巣を作って辺りを睥睨(へいげい)しているのをよく見かけたが、実際に自然の中でエサを食べているのは初めて見た。厳密にはstorkというのは東アジアの絶滅危惧種のコウノトリとは少し違うシュバシコウという鳥らしいが、サギよりもずっと大きい。巣は何代も使うらしい。

エル・ブルゴ・ラ・ネーロは歴史的な建造物は少ないようだが、思ったよりも観光客の多い町でレストランや宿泊施設も複数ある。快適な個室滞在に味をしめるともうドミトリーは辛くなってきた。二人だと個室もそれほどの贅沢ではない。こちらで入手したアルベルゲ一覧に+chambresと備考欄にあるものには個室がある。それを見て町はずれの沼(la laguna)のほとりにあるその名もずばり「ラ:ラグーナ」というアルベルゲに行ってみると、ありがたいことに小さいがシャワー・トイレ付きの個室に入れた。点灯しない電気スタンドや天井灯を直してくれたり、庭に干してあったウェスかと思うようなタオルを取り込んで持ってきてくれたり、オスピタレロも感じがよい。というより、このアルベルゲ全体がちょっと浮世離れしたパラダイスだ。美しい広々した芝生にいくつものパラソルやカウチが並べられ、殆どの泊り客が外でゴロゴロして読書、昼寝、スマホいじりをしている。気持ちがよいという理由もあるが、掲示板に free Wi-Fi が屋内では入りづらいので、庭で送受信しろと書いてあった。自炊キッチンはあるが飲食施設はないので、皆シラフで落ち着いた雰囲気なのだ。

日課作業後とりあえず街に出てバル「エル・カミーノ」でトルティージャとカーニャ。町並みや教会や沼地(自然保護区になっている)を見てからアルベルゲに戻り、私たちも庭で寛いだ。田舎だからなのか観光客が多いせいなのか、夕食は早めに食べられる。「エル・ペルグリーノ」というレストランで定食。まず一皿目の選択肢にあったアーティチョークの蕾の芯の煮込み、カリオン・デ・ロス・コンデスで美味しさに感動したので即決した。味付けは前のとは違い酸味が強かったが地元の味なのだろう。二皿目はパプリカにタラとチーズを詰めて焼いたもの。パプリカ自体の甘味に驚く。デザートはメロンにした。勿論パン、ワイン、ミネラルウォーターがついて€10だ。

レオンは射程圏内に入った。なんとなく気が楽になり、就寝は9時過ぎ。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

five × 5 =