『笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ』


101歳という数字は、遙かなる数字だ。65歳のぼくには、まずその数字に気が遠くなった。このおばあさんとおじいさんはいったい何者だというのが映画を観る前のぼくの感想だった。

おばあさん、おじいさんと言っても、ぼく自身が前期高齢者に属し、国から介護保険の請求が届くようになっていて、「おまえはおじいさんである」ということを承知せざるを得ないのかと、なにか釈然としない思いにかられていたからでもある。

しかし、笹本恒子さんとむのたけじさんの101歳は、その数値を感じさせない。まず映画のなかで笹本さんとむのさんに出会えたことがうれしかった。こうした映画のすばらしさは、実際の人物と出会えるということだと思う。表情や素振り、語りのなかに、本人の人間味を知ることができる。

笹本恒子さんは、日本初の女性報道写真家であり、時代を彩った人物も撮られている。カメラマンだけではなく、フラワーデザインなどにも関わってきたユニークな人である。

むのたけじさんは、戦前戦後を生き抜いた伝説のジャーナリストである。戦後すぐにふるさとの秋田で週刊新聞「たいまつ」を発行する。常に戦争反対の姿勢を崩さず、平和の尊さを訴え続けた。

この映画のなかでもプロフィールは描かれるが、91分の尺では、2人の人生の長さを捉えることは難しい。パンフレットに書かれた2人の歩みや、著作一覧を参考にして、映画を観たあとでもう一度2人の足跡を辿り直したくなる。

映画とは、その映画を2度3度観ることで、登場する人間を深く鑑賞し味わうことができる。そして批評する眼を持つことで、なお一層1本の映画から学ぶことできると思う。監督のメッセージを受け止めるには、このような観る側の姿勢も求められているだろう。

笹本さんが住む高層のアパートで語る「人生には山あり谷ありだから、ここから飛び降りたくなったこともあるわよ、よくここまで生きてきたわ」という言葉に、正直な笹本さんを知る。

むのさんが入院し、生死をさまよってから発言した「生命について改めて考えてみたい」というような言葉にも触発されることがある。

若い人からはなんだか悟ったような話ばかり聞かされているような気がしてきたぼくは、101歳の2人からは若さをいただくことができた。

人間にとって、数値はあくまでもひとつの尺度にすぎまい。生きるとは、常に生々しくあれということをしっかりと教えてもらった。

鵜飼清(評論家)

6月3日、東京都写真美術館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

監督・脚本:河邑厚徳(『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』)
出演:笹本恒子、むのたけじ 語り:谷原章介 音楽:加古隆

プロデューサー:平形則安 撮影:中野英世、海老根務 編集:荊尾明子 音楽監督:尾上政幸
製作:ピクチャーズネットワーク株式会社 配給マジックアワー、リュックス
2016年/日本/ドキュメンタリー/カラー/91分/デジタル
© ピクチャーズネットワーク株式会社

公式ホームページ http://www.warau101.com/


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